過酷な環境で使われるバネに強みを持つ村田発條
村田発條は自動車用の特殊バネで世界トップクラスのシェアを誇る企業です。同社の創業は1913年、今年で108周年になります。単体の売上高は約75億円(2020年度)で、従業員は300人弱の中小企業です。国内以外にも、アメリカ、メキシコ、中国に拠点があります。
宇都宮の歴史ある中小企業である村田発條が、なぜグローバルな自動車部品市場で存在感を示すことができているのでしょうか。
車のバネで最初に想像するのはサスペンションのバネですが、同社の主力製品はもっと小さなバネです。ひとつがトラックのエンジンで使われる「バルブスプリング」、もうひとつが乗用車の変速機に使われる「ダンパースプリング」です。
この2つの製品は過酷な環境で使用されるので、顧客からの要求水準も高いです。また、バネが使われる製品ごとにカスタマイズすることが求められます。そのため、同社で生産しているバネの品種は約4000種類にも上ります。村田発條が提供しているバネは、顧客の要求がきわめて高度で多様という点と、製品の設計と製造の面倒さ(これについては後述します)の点で、前回の記事で説明した“ややこしい系”製品の典型だと言えます。
同社が手掛ける2タイプの主力製品について説明します。
「バルブスプリング」はエンジンの吸排気バルブを閉じるために使用されるので「弁ばね」と呼ばれます。同社のシェアは国内の4トントラックでほぼ100%です。エンジンのバルブは高速で開閉を繰り返すので、弁ばねも高速で伸縮を繰り返します。さらにトラックは乗用車よりも走行距離が長くなるので、100万キロ走行しても壊れない耐久性が求められます。
「ダンパースプリング」は乗用車の変速機に使われます。同社は国内シェア約30%、世界シェア約15%です。このバネはエンジンのトルク振動(エンジンが生み出す回転力で発生する振動)を吸収して、乗り心地を改善する役割を担っています。使用環境は過酷で、高温(150℃)、高速(1分間あたり6,000~8,000回転)、力のかかり方がアンバランス(非平衡圧縮)などの条件をクリアする必要があります。
村田発條の「オモテの競争力」は、顧客からの多様で厳しい要求に耐えうる特殊なバネ(主に自動車用)を、安定的に供給していることです。
同社のような地方都市を本拠地とする中堅企業が、競争の激しい自動車部品業界で存在感を示せている理由は何でしょうか。その謎を紐解く上で、まず宇都宮という土地と村田発條の歴史を掘り下げます。