デザインによるイノベーションは「顧客との対話」
こうして「デザインと企業戦略」について考えを巡らせていると、不安が増すかもしれない。その不安というのは、競争優位性に関する不安ではないだろうか。
- 「感性」のような曖昧なものに頼ってもいいのだろうか
- 何をもって「よいデザイン」というのかがはっきりしなければ、判断のしようがない
- もし優れたデザインで市場を築いたとして、真似されたらどうしよう
- デザイナーが引き抜かれたらどうするんだ
アイブ氏や原研哉氏が警鐘をならすのは、企業間での競争についてではない。「企業と顧客の対話」についてである。仮に、競合が星の数ほどいても成功するビジネスをすることは可能だが、顧客が一人もいなければ、ビジネスの成功はおろか、まったくビジネスにならないのだ。顧客に新たな価値を届けようとするのであれば、顧客にとって「価値」とは何であるかを、企業は新たに気づく必要があることを私は強調したい。顧客を忘れたものづくりの背景として、大量に生産することを前提として作り手の論理が優先してしまっていると原氏は忠告する。だからといって、売りたいばかりに顧客に迎合したデザインをすると、顧客は敏感にそれを感じ取り、次第に離れていくという。