パーパスを従業員の行動につなげる方法
──前回は、「デザイン経営」にはパーパスが核となること、そして「パーパス」を作り出す方法を伺いました。今回は実際にデザイン経営を導入する方法についてお聞きしたいと思います。
永井一史氏(以下、敬称略):導入にあたって、まず根幹となるのは、パーパスを従業員一人ひとりに浸透させ、行動にまでつなげることです。言葉だけで人は動きません。全社に浸透するまで、経営者が様々な工夫をして伝え続ける必要があります。
たとえば「日本の工芸を元気にする」を掲げる中川政七商店では、あらゆる従業員に対して、中川社長が直接語っています。
新店舗がオープンする度に、店舗スタッフと食事をして「あなたたちの仕事は予算達成だけではなく、その先の、『日本の工芸を元気にする』ことです」と伝えるそうです。このような直接の発信を5年間続けたことで、ようやくアルバイトも「私の仕事は『日本の工芸を元気にすること』です」と話すようになったそうです。
──繰り返し伝える以外に方法はないのでしょうか。
永井:“場”や“仕組み”のデザインも有効です。
世界的に有名な成功例に、米国の組織変革コンサルティング会社であるSYPartnersが手がけた、スターバックスの再生があります。同社はまず、8年ぶりにCEOに復帰した創業者ハワード・シュルツと共に、パーパスを定義しました。そして、組織全体に浸透させるために、1万人のストアマネージャーを集めてパーパスと実行計画を伝え、全米7,100店舗を閉めて3時間半かけてバリスタへの再教育を行いました。その他にも、新たなリーダーシッププログラムの開発などパーパスを浸透させるために様々な取り組みを行いました。この再生の経緯は『スターバックス再生物語 つながりを育む経営』に詳しく記されています。
──その他に、従業員が日常でパーパスを意識するための仕組みについてもお聞かせください。
永井:私たちが手がけた「パレスホテル東京」のリブランディングの事例では、リニューアルにまつわるストーリーを、「Story of PALACE」という一冊の本にまとめました。
このようなツールは、作っただけでは従業員の意識にまで浸透しません。そこで、これらのストーリーを従業員に対して説明するだけでなく、全客室に置くことにしました。自分たちのサービスにかける思いを具体的な約束としてお客様に見せることで、従業員一人ひとりに、常に“約束”に値する振る舞いをしなければならないと意識させたのです。
パーパスを日々の業務で意識するデザインとしては、様々なファッションブランドを展開する「アダストリア」が導入した「Play fashion! カード」の事例もあります。同社では、店舗スタッフ含む数千人の従業員全員が「仕事を通してどんなワクワクを創造していくのか」を、毎年カードに書いて、身につけています。一律の行動規範を会社から与えるのではなく、従業員が自分の言葉で行動指針を書くことで、会社のスローガンを自身の業務に落とし込めるようになるのです。