脱炭素社会に向けて企業に変革を迫る三つの圧力
──脱炭素を目指す中でも、企業の機会としての「事業開発」について伺いたいと思いますが、まずは機会の前に、リスクとしての側面について。
EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジック インパクト パートナー 尾山 耕一氏(以下、敬称略):取り巻くステークホルダーからの圧力により、企業が脱炭素に取り組まないことは、非常に大きなリスクになってきています。
一つは、投資家や株主、金融機関からの圧力です。彼ら自身もポートフォリオを脱炭素にしていくよう社会から圧力を受けており、ポートフォリオに含まれている企業に対して、より積極的に対応するようになっています。むしろ、炭素をたくさん出している会社から投資を引き上げる「ダイベストメント(divestment)」が実際に頻発しています。
二つ目は、法規制による圧力です。EUは、環境規制の緩い国からの輸入品に課税する「国境炭素税」の導入を発表し、2026年から国境炭素税が全面的に適用されることが決まっています。日本でも経済産業省、環境省により炭素税の導入が検討されており、今後は炭素に価格をつけることがより顕著に具体化していきます。当然ながら、企業にとっては炭素排出がそのままコストとなり、利益が流出していくことにつながる可能性が高まっています。
三つ目は「顧客からの圧力」です。典型的にはBtoB企業ですが、昨今はBtoCメーカーに関しても、バリューチェーン全体でいかに脱炭素にしていくのかが求められてきています。
アップルは2030年までに脱炭素を目指すと宣言[1]していますが、今後はこうした方向性が増えていくと思われます。そうすると、バリューチェーンの上流に位置する企業としても、脱炭素を進めないことにはサプライヤーとして選ばれなくなっていく可能性が高い。
グレタさんに代表されるミレニアル世代、Z世代は、サステナビリティに対する感度が非常に高く、脱炭素についても意識が高いことが、複数の調査結果により明らかになっています。ここまで環境問題が深刻化した世の中に育っている彼ら彼女たちだからこそ、高い危機感を持っているという仮説は十分に成り立つものだと思います。
[1]Apple「Apple、2030年までにサプライチェーンの 100%カーボンニュートラル達成を約束」(2020 年 7 月 21 日)