温室効果ガス排出量の多い領域ごとの削減策
──脱炭素社会の実現に向けて、まずは現状の温室効果ガス(GHG)の排出量に関して。
EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジック インパクト パートナー 尾山 耕一氏(以下、敬称略):様々な政策や提言が、温室効果ガス(GHG)排出量の多い領域ごとの排出削減策を打ち出していますが、その領域は概ね、エネルギー、産業、運輸、建築物、食糧・農林水産業の5部門に大別できます。
中でも“一丁目一番地”が「エネルギー転換部門」です。化石燃料に依存している現状から、再生可能エネルギーや水素、蓄電池といったものを活用したエネルギーシステムへと転換していかなければなりません。
「運輸部門」に求められることはシンプルで、自動車やトラックに関しては、燃料のカーボンニュートラル化もありつつ、基本的な方向性としては、EV(電気自動車)とFCV(燃料電池自動車)に代表される電動車に代替する。船舶や航空に関しては、現状では電化が難しいため、投入するエネルギーをクリーンにしていく形で転換が図られるでしょう。
「産業部門」は、それぞれの企業のサプライチェーンにおいて排出しているCO2を削減していく努力をしていかなければなりません。特に、鉄鋼、セメント、石油化学、化学などCO2を大量に排出する産業では、プロセスを効率化するだけでは、対応として不十分。バイオ原料や電化、水素といった様々な手段を組み合わせることでCO2を削減する、抜本的なプロセス変革が求められます。抑制しきれない分についてはCCUS(CO2の回収・利用・貯留)していくなど、あらゆる手段を使ってCO2を減らす努力が必要になります。
世界の最終エネルギー需要の31%は建造物での使用だとされており、「建築部門」においても、いかにCO2を削減していくかというチャレンジがあります。建物を利用する際のエネルギーの問題ももちろんありますが、運用する以前の、建てる段階からCO2の排出を減らしていく必要があります。
「食糧・農林水産業」に関しては、バリューチェーン全体でCO2に限らない温室効果ガス(GHG)が多く排出されているため、それを減らす努力が求められます。逆に、農法を変えることによりCO2を土壌に長く吸着させておくことも期待されており、より積極的にCO2削減に寄与できるような産業転換ができると望ましいと考えています。
それでも減らしきれない分については、植林などの自然の力に頼るやり方に加えて、DAC(Direct Air Capture)やCDR(Carbon Dioxide Removal)といった新技術により排出実質ゼロを目指す。
このように、それぞれのセクターでおしなべて変革に向けたチャレンジが求められていくという認識がまず必要になります。