IBMは5月10日(米国現地時間)、実用的な量子コンピューティングの実現に向けたロードマップの拡充を発表した。
新たなロードマップでは、IBMの量子システムの量子ビット数を最大数十万ビットに拡大するため、新しい個々が接続可能なモジュール式アーキテクチャーの計画が説明されている。同社は、実用的な量子コンピューティングに求められるスピードと品質を担保するために、ワークロードを効率的に分散し、インフラストラクチャーの課題を取り除くソフトウェア・オーケストレーション・レイヤーの構築を継続していくと述べている。
また、同社は2022年後半には、これまで策定してきたロードマップ上の目標を継続し、433量子ビットのプロセッサーである「IBM Osprey」を発表する予定だという。
加えて2023年には、Qiskit Runtimeとクラウド上に組み込まれたワークフローにより、フリクションレス(摩擦のない)な開発体験を構築するという目標を進展させ、コア量子ソフトウェア・スタックコアにサーバーレス・アプローチを導入。開発者に簡便性と柔軟性を提供する予定だとしている。ハードウェアの面では、1,000 量子ビットを超えるユニバーサル量子プロセッサー「IBM Condor」を発表する予定だと述べている。
モジュール式量子コンピューティングの導入
新たなロードマップでは、量子プロセッサーのスケーラビリティについて、3つの領域をターゲットにしているという。
複数のプロセッサー間で、古典領域での通信と並列処理を行う機能を構築
従来の計算リソースとサイズを拡張できる量子プロセッサーを組み合わせ、エラー緩和技術の向上やワークロードのオーケストレーションなど、実用的な量子システムに必要な技術へつながる。
短距離のチップ間接続の導入
複数のチップを緊密に接続し、単一の大規模なプロセッサーを効率的に形成するスケーリングの鍵となる、基本的なモジュール性を導入する。
量子プロセッサー間の量子通信リンクの提供
実現に向け、クラスターをより大きな量子システムに接続するための量子通信リンクを提案した。
これらの拡張技術を活用し、同社は2025年の目標である、モジュール式に拡張されたプロセッサーの複数クラスターによって構築された、4,000量子ビット以上のプロセッサーの実現を目指すとしている。
量子セントリック・スーパーコンピューティングのファブリック構築
2022年のはじめに、同社はアルゴリズムで使用される一般的な量子ハードウェアクエリを使いやすいインターフェースにカプセル化する「Qiskit Runtime」のプリミティブを発表。2023年には、これらのプリミティブを拡張し、開発者が並列化された量子プロセッサー上でそれらを実行できるようにすることで、ユーザーアプリケーションの高速化を計画しているという。
なお、同社の拡張版量子ロードマップで示された新しいシステムは、「IBM Quantum System Two」内で稼働するように設計されている。同システムのプロトタイプは、2023年の稼働開始を目標としていると同社は述べている。
IBMの量子安全
同社は、量子力学の時代において顧客のデータを保護するために設計された暗号技術と、コンサルティングの専門知識からなる「IBM Quantum Safe」ポートフォリオを近々発表する予定だという。
ポートフォリオは以下のとおり。
- 新しい量子安全暗号化の違いや、組織への影響を理解するための教育を提供。加えて、セキュリティの専門家や責任者のために設計されたIBM Quantum Safe Awarenessサービスによる、次世代量子安全暗号化への移行のための戦略的洞察を定期的に提供
- IBM Quantum Safe Scope Garageのワークショップを通じ、IBMコンサルティングによる戦略的ガイダンスを提供。同プログラムは、組織ごとのリスクやIT戦略、サプライチェーンの依存関係、エコシステムの運用に合わせた、量子安全への取り組みに優先順位をつけるための最初のステップとなる、ガイダンスと教育を提供するもの
- リスク評価と発見を自動化し、暗号インベントリー、依存関係、セキュリティ・ポスチャーを確立
- アジャイル暗号および量子安全暗号への移行により、暗号サービスなど、最新かつ柔軟なパラダイムを実現