「物理空間」と「仮想空間」の融合というトレンド
最初にご紹介するのは、「物理空間と仮想空間の融合が進んでいく」というトレンドです。これは、物理空間と仮想空間の境界線があいまいになっていくと言い換えることもできます。早速、顧客接点、プロダクトやサービス、オペレーションという3つの側面から見ていくこととしましょう。
顧客接点という側面における大きなトレンドは、OMO(Online Merges with Offline)というマーケティングコンセプトまたは施策です。これは、オンラインチャネルがオフラインチャネルと融合するということを意味します。ここでいうチャネルとは、顧客や利用者と接するための手段、媒体、環境を指します。
インターネットとECビジネスの台頭によって、これまで小売業を中心に、O2O(Online to Offline:オンラインチャネルからオフラインチャネルへの誘導、またはその逆)というマーケティング施策が採用されてきました。O2Oが企業中心のアプローチであるのに対し、OMOはより顧客中心のアプローチです。なぜならば、多くの顧客は優れた購買経験を期待しているのであって、オンラインチャネルとオフラインチャネルの使い分けを明確に意識しているわけではないからです。
OMOを支える重要な主要なテクノロジーとして、モバイル、センサー、人工知能などの普及があります。
例えば、レジのない物理的店舗であるAmazon Goにおいて、顧客はモバイルアプリ上のQRコードを入口のゲートにかざして入店します。次に、顧客が陳列棚から商品を手に取ると、AIカメラが商品と顧客を自動で認識して両者を紐づけます。最後に、顧客が出口のゲートを通過すると、自動的に決済が行われるといった仕組みです。つまり、物理的な店舗という空間に、様々なデジタルテクノロジーが組み込まれているのです。
OMOというコンセプトは、新しいプロダクトやサービスにも活用されています。その1つとして、中国をはじめとする東南アジアを中心に推進されているOMO学習というコンセプトがあります。これは、オンラインとオフライン上に存在する学生が同時に学習教材を共有したり、学生と教師が協働したりする空間を提供するものです。例えば、「ClassIn」というプラットフォームでは、教師がオンラインとオフラインの両方の生徒をグループに分けるとともに仮想ルームに割り当てて、特定の学習タスクに共同で取り組むことができる仮想会議室も提供しています。
最後に、製造業や建設業を中心としたインダストリアル系のオペレーション領域における物理空間と仮想空間の融合として、デジタルツインというコンセプトも普及しつつあります。これは、現実の世界から収集される膨大なデータ(モノ、ヒト、場所、プロセスなど)を、デジタル空間で双子のように再現するテクノロジー群を総称するコンセプトです。これによって、リードタイムの短縮、オペレーションのコストダウン、保守作業の円滑化などの実現が期待されています。
例えば、機械設備に装着されたセンサーが稼働状況に関する膨大なデータを収集し、それらのデータはクラウド上に蓄積され、人工知能によって分析されます。そして、仮想現実/拡張現実ウェアラブルデバイスを身に付けた作業者は、その機械設備の保守を円滑かつ効率的に行うといった具合です。