「オープンイノベーション促進税制 M&A型」の狙い
及川厚博氏(以下、及川):今年4月から施行された「オープンイノベーション促進税制 M&A型」の利用状況はいかがでしょうか。
白坂弘氏(以下、白坂):6月末時点で、すでに数十件以上のお問い合わせをいただいております。要件に適合するかについて、経済産業省が事前に確認・回答する制度である「事前相談」の申請も来ています。
及川:M&Aを選択するスタートアップも近年ゆるやかな増加傾向にあるとはいえ、国内では依然、新規上場という狭い“出口”を目指すスタートアップがひしめいているのが現状です。今回の「オープンイノベーション促進税制 M&A型」の導入には、この「出口が詰まっている」問題に光を当てたという意味で、大きな意義があると感じています。経産省としては、どのような意図で導入に至ったのでしょうか。
白坂:おっしゃる通り、日本のスタートアップの出口戦略が、欧米と比較するとIPOに偏っていることに問題意識を持っていました。そこで、スタートアップの成長に資する出口戦略の多様化を図る観点から、M&Aという選択肢をより普及させていくため、インセンティブを設けようと考えたことがきっかけの1つです。
スタートアップの成長促進に向け、「IPO偏重」を是正し、M&Aを増やしていきたい理由としては、主に2つの観点があります。
1つは、競争力のあるスタートアップを創出していくことです。「国内のスタートアップはIPO後に成長スピードが落ちやすい傾向にある」というデータがあります。事業内容などからスタンドアローンで大きな成長を遂げられるスタートアップもいれば、自社単独で急成長を遂げていくことは難しく、M&Aによって大企業等の傘下に入り、大企業等の経営資源やネームバリューを活用して、顧客基盤の拡大などの非連続な事業成長が向いているスタートアップもいると思います。
そのため、出口戦略の選択肢が限定的にならないよう多様化することが必要だと考えています。KDDIにグループインしたソラコムのように、大企業傘下で成長を加速させつつ、IPOを目指すいわゆる「スイングバイIPO」なども、1つの選択肢ですよね。
2つ目は、M&Aの活発化が進むことで、人材・資金をより早く循環させることができる点です。IPO後の起業家は、経営から離れにくく、かつキャッシュを得にくいと一般的には言われています。一方M&Aの場合、買い手企業へのビジネスの継承などが完了すれば、起業家は経営から離れることができ、創業株の売却によりキャッシュも得られるため、シリアルアントレプレナーやエンジェル投資家となるなど、人材・資金をエコシステム内で早く循環させることが可能となります。