店舗が「物を売る場所」でなくなったことが“共創”につながった
及川厚博氏(以下、及川):丸井グループといえば、1931年に創業し、「マルイ」の店舗ブランドで躍進した小売業の老舗企業ですが、2006年から発行を開始したエポスカードによって金融分野が大きく成長し、現在グループ総取扱高は過去最高の4兆4872億円に達しています(2024年3月期連結)。そして、近年は、さらなる成長のために、スタートアップへ様々な形で投資されています。1つはグループ本体にある共創投資部、もう1つが子会社のD2C&Co.からの投資ですね。これらの共創投資はどのように始まったのでしょうか。
相田昭一氏(以下、相田):当社のスタートアップ投資は2016年にスタートしました。新規事業を作る取り組みは社内でもいろいろ行ってきましたが、イノベーションを起こそうとすると、会社内部から生み出すだけではどうしても時間がかかります。そこで、スタートアップの方々と協業、共創することで、互いの企業価値を高めていけるのではないかという仮説のもとに始めた取り組みでした。
及川:当時の御社の経営環境はどのような状況でしたか。
相田:私たちの小売事業は、まだ百貨店型の商売をしていたころでした。ちょうど物の売買がECに移っていく時期で、リアルの店舗運営をどのように変革すべきか試行錯誤していたころでした。2016年4月にオープンした福岡・博多マルイは、“お客さまと一緒につくるお店”と掲げて店の中身をイチから作ったのですが、それは私が担当していました。百貨店型のビジネスは、基本的にテナントの売上から歩合で収入を得る仕組みですが、博多マルイではオープン時から家賃を収入とするSC(ショッピングセンター)ビジネスに転換したのです。
及川:ビジネスの転換期ですね。
相田:そうですね。じつは昔、当社のECもファッションECでは最大手と同じくらいの取扱高があったのですが、当社のECはその後成長が鈍化してしまいました。先に始めても最終的には成功させることができなかったという反省もあり、やはりECが台頭する中で、リアルの店舗は「物を売る場所」ではなくなっていき、私たちはどのような役割を果たすのかという課題認識を持っていました。
そのころ、米国ではD2Cブランドが台頭しており、日本でも新たな商品選択の1つにD2Cブランドが入ってくるだろうと考え、買うのはECで、リアル店舗は体験する場として機能するような位置づけに定義し直しました。D2Cにも投資しますし、投資先に出店していただくような関係性を構築していきました。投資先の1つにカスタムオーダースーツを販売するFABRIC TOKYOという会社があるのですが、ここはスーツを作るために初回はリアル店舗に行く必要があるため、私たちの店舗を使っていただいています。2020年には、D2C&Co.というD2Cのエコシステムを支援する新会社を設立しました。
及川:そうして共創の取り組みが生まれてきたのですね。