企業は“何のため”に経営されるべきか
書籍『GROW THE PIE』の著者であるアレックス・エドマンズ教授は、ロンドンビジネススクールでファイナンスの教授を務めている。投資銀行でインベストメントバンカーとして活躍後、経営学の研究者として「公益を実現するビジネス」の研究に取り組んでいる。
「企業は利益のために経営されるべきか? パーパスのために経営されるべきか?」を問う『GROW THE PIE』は、英フィナンシャル・タイムズ紙の「Best Business Books of 2020」を受賞するなど、アカデミズムからもビジネス界隈からも注目を集めている。
冒頭のビデオメッセージで、エドマンズ教授は「なぜ、本書を書こうと思ったのか? なぜ『GROW THE PIE』という概念を持ち出したのか」という問いに対して、「企業もビジネスマンも『パイ分割』のメンタリティではなく、『パイ拡大』のメンタリティを持たなければならない」と指摘する。
ここでの“パイ”とは、企業が生み出す価値(バリュー)である。パイは株主が利益として受け取る場合もあれば、その他のステークホルダーが適正に定められた税金や賃金として受け取る場合もある。パイを分割して考える場合、パイの大きさは決まっているので、誰かにパイを与えるためには誰かを犠牲にしなければならない。つまり、株主とステークホルダーは利益相反になる。
エドマンズ教授は「多くのビジネスマンは受け取るパイを増やすには社会が受け取るパイを減らすとよいと考えている。社会的な影響を考えずに、単価の値上げをしたり、従業員の賃金を下げたり、環境汚染を引き起こす」という。
同様にエドマンズ教授が批判するのは、「社会に貢献しているように魅せる企業」だ。聞こえのいい社会貢献をパーパスに掲げながらも、行動に移していない企業も多いという。教授の調査では、2019年に米国では200社のCEOが「これからの企業は社会に貢献する」と宣言したものの、多くのCEOはその後実行に移さなかったという。
エドマンズ教授が強調したのは、「『パイ分割』のメンタリティを持っているのはビジネスリーダーだけではない。社会のために立ち上がる労働組合や環境活動家も、社会を守るためには株主の利益を減らすしか方法がないと思っている」という点だ。
そもそも、利益は社会の中で大きな役割を果たしている。利益を確保している株主は、子供の教育資金を貯める親かもしれないし、退職後の老後資金を貯める人や、保険金支払いの準備をする保険会社かもしれないのだ。
エドマンズ教授は「ビジネスのパーパスを再考する場合には、株主とステークホルダーの両方を重視する必要がある。“どちらか”ではなく、“どちらも”重要である。そのために本書を執筆した」と冒頭の問いに対しての執筆理由を述べた。