「何が」「どうなると」うれしいのか、から始める
意思決定者にはまず、「『何が』『どうなると』うれしいのか」を尋ねるべきだと西内氏は語る。それを数値に落とし込み、最終的にどういった数値を最大化すべきなのか、あるいは最小化すべきなのかを決めることができるからだ。
目的となる数値「アウトカム」を定めることから、データ分析は始まるという。より多くの商品が売れるようになるなどの「目的」を数値で表すことで、分析の設計が固まってくる。たとえばカスタマーサクセス部門では、ライフタイムバリュー(LTV:顧客生涯価値)や継続率、生産部門や物流部門では不良品率、歩留まり、在庫量、人事部門なら離職率などが数値として表せるだろう。
そうすれば、次に関連するデータを適切な粒度で集積できる。そして、関連データを見ながら、LTVの高い顧客と低い顧客、不良品率の低いラインと高いライン、離職率が低い人材と高い人材の違いを分析できる。
つまり、アウトカムをデータから定義し、計算可能にしておけばこそ、アウトカムを左右する数値を見つけることも可能になるということだ。これは説明変数、特徴量などと呼ばれる。説明変数が明確になれば、具体的な施策を考えられるようになる。
データ活用施策は「変える・狙う・大丈夫にする」の3パターン
データを活用した施策には、大きく分けて3パターンしかないと西内氏は述べる。
一つ目は、「変える」施策。たとえば、ある特定の商品や時間帯での注文などといった行動データから、優良顧客になりやすい条件・傾向が分析結果から判明したとする。そうしたとき、まだその商品を買っていない人、あるいはそのタイミングで商品を注文していない人に、新たなキャンペーンや販促企画といった施策をとり、その傾向や条件に意図的に当てはまるよう行動を促すことが可能となる。密かに売上のキードライバーとなっている要素を見つけ、それを活用するのである。
二つ目は、「狙う」施策。顧客の属性には変更できない要素が存在する。ジェンダーや年齡層の傾向、あるいはBtoBであれば、業種や地域ごとの傾向がデータから明らかになるだろう。しかし、顧客の年齢を変えることはできないし、業種を転換していただくわけにもいかない。こうなると、一つ目の「変える」アクションは機能しない。
しかし、これらの属性の顧客をより重点的に狙って商品を届けることは可能だ。女性がよく購入してくれるのであれば、女性向けメディアを積極的に活用し、製造業に優良顧客が多いのであれば、製造業向けの展示会などへの出展を考える。「狙う」ことによってマーケティングのROIが上がっていくのである。
そして三つ目は、ネガティブな条件を解決し「大丈夫にしてあげる」施策だ。ある属性や購買パターンに当てはまる人は優良顧客になりにくいと判明したとき、そうした条件でも「大丈夫にする」にはどうすべきかを考えるのである。
たとえば、男性が優良顧客になりにくいことが判明したとすれば、男性でも買い物がしやすいよう「売り場は男性が入りにくい雰囲気ではないか」などと諸条件を子細に検討する。BtoB事業で、中小企業の顧客がなかなか増えていかないという分析結果が得られたならば、コストが大きすぎて導入に至っていないのではないか、などと考えられるだろう。このように、潜在顧客にとっての購入ハードルを下げる施策を打ち、ブルーオーシャンを獲得しに行くのが「大丈夫にする」アクションだ。
最後に西内氏は、「まずは、ぜひ具体的なアクションを実践するところまでいっていただきたい。そうすれば、データ活用がより高い生産性や収益につながっていくサイクルを徐々につくり上げていけるはずです」と語り、講演を締めくくった。