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イノベーションへの3つの壁と「デザイン思考」

第6回

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3つの壁を壊す「デザイン思考」は日本人が得意

 以上のように、イノベーションを実現するには3つの壁を壊す必要がある。

 最も困難な壁は、最後の「文化」だ。組織の文化や性質により、得意な学び方と苦手な学び方が分かれる傾向にある。特に、一般的な日本企業は左下(知覚型)の学習に強く、右上(跳躍型)の学習に弱い。たとえば「現場主義」一辺倒の組織がある。この組織では、徒弟制度のように、優れた上司と一緒に仕事を行う体感ベースの学びがメインとなる。顧客と関わる中で得られた新しい発見や知識があっても、組織の中でその発見を抽象化したり、体系化させる仕組みがない。

道具としてのデザイン思考による学習プロセスの促進 図4 道具としてのデザイン思考による学習プロセスの促進
(参照:Beckman & Barry, 2007)
 結果的に「優れた人が、優れた人を育てられない」といった現象や「一人の天才が登場して、卓越した成果を出す」という夢物語に期待するようになってしまう。具体的な学びを抽象的にとらえ、そこから新たなアイデア(≒イノベーションの芽)を創造する仕組みが必要だ。
 では、どうすればこのサイクルをスムーズにまわすことができるのだろうか?イノベーションの文化を育てる道具として有効なのが、「デザイン思考」だ。デザイン思考は、すべての領域で学びを得られる構造になっている。

 アメリカで生まれた道具ではあるが、日本人が得意な知覚型の学習からプロセスが始まる。日本人がこれまで訓練してこなかった抽象的学習を行う必要も出てくるが、最初の一歩は日本の組織にとって非常に親和性が高いものとなっている。

   * * * * *

 次回以降の連載では、道具としてのデザイン思考そのものに焦点をあて、より詳しい形で各プロセスや注意点について紹介していきたい。

 本稿内の出典・参考文献は以下にまとめます。

  1. Beckman, S.L. and Barry, M. (2007) Innovation as a Learning Process: Embedding Design Thinking. California Management Review, 50, 25?56.
  2. d.school K-12 lab wiki
  3. Fleming, Lee, Perfecting Cross-Pollination. Harvard Business Review, 00178012, Sep2004, Vol. 82, issue 9.
  4. Katz, Ralph, and Thomas J. Allen. "Investigating the Not Invented Here (NIH) syndrome: A look at the performance, tenure, and communication patterns of 50 R & D Project Groups." R&D Management 12.1 (1982): 7-20.
  5. March, J. G. (1991). 'Exploration and exploitation in organizational leaning'. Organization Science, 2, pp. 71-87.
  6. P. F. ドラッカー (2007) 『イノベーションと企業家精神』上田惇生訳, ダイヤモンド社
  7. クリステンセン(2001)『イノベーションのジレンマ』玉田俊平太監訳, 伊豆原弓訳, 翔泳社
  8. 榊原 清則(2005)『イノベーションの収益化―技術経営の課題と分析』有斐閣

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この記事の著者

柏野 尊徳(カシノ タカノリ)

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