「不確実性の壁」を乗り越える-失敗前提の小規模実験
多様性が高まれば失敗の総数も増加するため、失敗を前提とした不確実性の低減が重要になる。焦点は、失敗の数を減らすことではなく、一回の失敗で発生するコストをいかに最小化するかという点にある(第四回目の記事も参照)。
そのためには「小規模な実験」を行う必要がある。実験の発想がなければ、意思決定は永久に先送りされる。先日、年商数兆円規模の組織に所属する開発担当者と話をする機会があった。「イノベーションを起こすための新規事業は、最初から10億規模の売上を目指して計画される」とのことだった。初めから一気に資源を投下し、大きいリターンを得る発想だ。
当然、失敗した時のコストは多大なものとなる。そのため、資金投下の承認を得るには「関係者の誰もが理解できるビジネスプラン」をつくる必要がある。誰もが理解できるということは、既に市場があるか先行事例があるということだ。「イノベーションを起こす」はずなのに、競合他社が既に手がけているような内容か、自社の既存事業を焼き直したようなお粗末なプランしか出てこないようになる。
一気に資源を投下するのではなく「小規模の実験を行い、可能性が低ければ中止する」というスタンスが求められる。特に、プロジェクト開始直後は投下コストが低いため、中止の判断と実行が比較的簡単に行える。ただし、サービスをローンチさせる直前まで話が進めば、いくら小規模とはいえプロジェクトの中止が難しくなってしまう。
なぜなら、プロジェクト責任者の頭の中に「いまさら失敗を認めるわけにはいかない」という考えや「ここまで資源を投下したのだから、最後までやり切ろう」という、感情的な判断が生まれてしまうからだ。中止を視野に入れたプロジェクト設計と、中止の判断を早めに行うことで不確実性の壁を乗り越えることができる。