「何をすればよいのか」がわかりにくい次世代経営者育成
次の経営者を誰にするのか。企業の永続的な発展・成長にとって、「次世代経営者育成」は非常に重要な課題であり、ここに異論の余地はないでしょう。私は普段、経営者の方々とお話をする機会が多いのですが、この悩みは昔から変わらずによく伺う内容です。しかし、重要と認識されながら、その対策が明確になっていない実態があります。
帝国データバンクの事業承継に関する調査[1]によれば、血縁関係によらない役員・社員を登用した「内部昇格」による承継は、全体の35.5%。これまで最も多かった身内の登用などの「同族承継」(33.1%)を上回り、事業承継の手法として初めてトップとなったとのこと。 つまり、内部で育成し、経営を承継するという流れが主流になりつつあるのです。しかし、ユニクロ、ソフトバンク、ニデックなどで苦労されている様子からもわかる通り、なかなか思う通りにならないのが現実です。
この連載では、次世代経営者育成の責任者である経営者のほか、企画を担う経営企画や人事部門の方々に向けて、「次世代経営者育成を巡るジレンマやそのポイント」について紹介します。単なる「対象者の能力・意欲アップに向けて何をするのか」にとどまらず、交代後の企業経営・成長や実践が進むところまでを視野に入れたときに、「育成」フェーズで何を考え、どう工夫すべきなのか、具体的にどう育成を進めていけばよいのかお伝えしていきます。
多くの企業が陥る“落とし穴”、目的への“誤解”
今回は、「次世代経営者育成を取り巻く環境と目的」についてです。
人的資本の情報開示の潮流もあり、多くの企業でサクセッションプランの策定が進められています。「次世代経営者に必要な能力・人材要件を明確にして、それに基づいて不足する能力・スキルを育成し、候補者を評価し選定していく」というプロセスを設計し、実際に運用している企業も多いでしょう。
しかし、この制度設計には大きな落とし穴があります。それは、「選定する」ことと「実際に経営を担う・実践する」ことの間に大きなジャンプがあることです。コロナ禍を含めここ数年の環境変化は激しく、実際に経営を担ってみると、「正解がわからない中で意思決定≒決断しなければいけない」という問題・課題に直面します。そうした「実際に経営者になった後、様々に直面する問題・課題」に対して通用する能力がなければ、経営者として能力不足とみなされてしまいます。
だとすれば、「実際に経営を引き継いで、自ら経営を担える状態を創る」ことを次世代経営者育成の目的に置き、そこから逆算して何が必要なのかを考えていく必要があるというのが、今回最もお伝えしたいこと・結論になります。
ある経営者は言っていました。「世の中の様々な企業を見ていると、誰を選ぶかばかり考えていて、『あの人を連れてくれば大丈夫だ』で終わっているように見える。この会社を継続的に発展していく状態にすることを考えると、誰を選ぶかよりも、そのあと実際にどうやって経営をしていくのか、そこまで伝えなければいけない」と。
以降のページで、具体的な課題やその背景、対策について詳しく見ていきましょう。
[1]帝国データバンク『全国「後継者不在率」動向調査(2023年)』(2023.11.21)