「右脳的な確信」と「左脳的な確証」の“振り子”が鍵
サービスデザインの失敗パターンとして、「右脳的な確信」と「左脳的な確証」のバランスが悪いケースがあると井上氏は語る。どちらもの要素をバランスよく兼ね備えたチームが必要なのだ。
例として井上氏が挙げたのは、前職JINSの田中仁社長だ。田中氏は直感的な思考が得意で、いつでも新しいアイデアがあるタイプの経営者だという。彼の事業アイデアのポイントは「確かにそれは欲しい人がいるな」と具体的に顧客の顔が一人思い浮かべられるところにあると井上氏は指摘する。必ず買ってくれるであろう、特定の一人の顧客「n1顧客」を見つける、あるいは、「あるある」を思いつくといった「右脳的な確信」から新規事業を創るとスピーディな創出が可能だという。
だだしこのアプローチには、キャズムを超えるのが難しいという弱点がある。ある一人の顧客の姿が具体的に想像できているため、5,000人、10,000人といった単位での売上は立つ一方、さらに事業を拡大しようとするときに停滞してしまうのが、直感的なスタートをきった新サービス・商品の特徴だと井上氏は説明する。
一方、大企業など合議で意思決定をする組織では、市場性や競合優位性、収益性などという客観的な指標に基づいた「左脳的な確証」から新規事業の立ち上げを行う。何人もが戦略的に丁寧に考え「確かにこれは投資したほうがいい、作ったほうがいい」と判断するのだが、この場合、心から欲しい人はいるか分からない、いわば全員にとっての50点のようなサービス・商品ができあがることが多かったと井上氏は振り返る。
「Value Design Syntax」とは新規事業を考えるためのフレームワーク
これらの落とし穴に陥らないためには、両者のバランスを取る必要がある。しかし、「バランスを取る」だけでは分かりづらいので、何を考えるべきかを分かりやすくするために井上氏らは「Value Design Syntax」というフレームワークを開発した。
まず大きな構造を見ると、Value Design Syntaxは大きく3つの部分から成り立っている。左からそれぞれ「売れるか」「勝てるか」「儲かるか」だとし、以降、その詳細が解説された。