JINSでの経験から新規事業の打率を上げる方策を考え抜いた
井上氏は前職のジンズ社(以下、JINS)にて、「JINS MEME」というウェアラブルデバイス事業、その後、「Think Lab」というワークスペース事業を立ち上げ、かつその事業を別会社としてカーブアウトし、責任者を務めていた経歴を持つ。その際、全く違う事業であっても、一度、新規事業を経験しているだけで、“鼻の利き方”が変わってくると感じたという。
しかし、新規事業は数を多くこなせるものではない。さらに企業組織で個人の経験値に頼って「打率」を上げるのは難しい。だからこそ、現在所属するSun Asterisk社(以下、Sun Asterisk)では「再現性」にこだわって、新規事業の打率を上げる方法について考え抜いてきたという。井上氏が入社した2年前には、Sun Asteriskは創業8年目を迎えており、すでに400件もの新規事業を支援していた。
2022年、多くの新規事業の創出支援をするなかで見えてきた、成功や失敗の傾向についての考察をまとめた著書『異能の掛け算 新規事業のサイエンス』(NewsPicksパブリッシング)が出版された。この書籍で触れられているとおり、打率を上げる方法のなかでもっとも再現性が高いのは「サービスデザイン」、つまり上流工程にあたる事業企画の部分だという。講演で井上氏はこの部分のエッセンスについて語った。
新規事業を再現性高く実行するための「チーム論」と「方法論」
新規事業を再現性高く実行するために、もっとも核となるのは「チーム論」と「方法論」の2つだという。この2つが兼ね備えられてはじめて新規事業は成功するのだ。
まずチームとして重要なのは、ビジネス(B)とテック(T)とクリエイティブ(C)の3つの考え方を持つ人々が密に連携しないと新規事業はうまく行かないということ。ここ20年ほどは、GAFAを含めて、複数人で創業する会社がうまくいっている。こういった背景もあるだろう。
つまり、自分に足りない考え方をしている人をチームに取り入れることが重要なのだと井上氏は強調する。どれだけ優秀な一人の人間でも、ある瞬間を切り取れば、あくまで1つの観点しか持つことはできない。そのため、チームでバランスを担保する必要があるのだ。