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デザインエンジニアリング集団「takram」が明かす創造のメソッド

Business Book Academy takramセミナーレポート

翔泳社ビズジンが毎月開催しているイベント「ビジネスブックアカデミー」。4月に開催された回では東京・品川の日立セミナールームでtakram design engineering(以下、takram)をゲストに招き、「クリエイティブ×ビジネスによる価値創造」というテーマでセミナーを開催した。

[公開日]

[著] モリジュンヤ

[タグ] デザイン思考 事業開発 デザインエンジニアリング

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takramには、デザインエンジニアと呼ばれるデザインとエンジニアリングの両方の領域に精通する職種のメンバーがいる。その他にもグラフィックデザインやサービスデザインなどに従事する多様なメンバーが集う、クリエイティブ・イノベイティブ・ファーム。手がけてきたプロジェクトは、ハードウェア、ソフトウェア、サービス、空間、ブランドに至るまで多岐に渡る。

セミナーでは東京とロンドンにオフィス構える注目のクリエイティブカンパニーの最新事例やそれを生み出す方法論、さらにはビジネスへの応用・実践についての話を聞くことができた。 セミナーに登壇したのは、デザイナー/ディレクターの渡邉康太郎氏と、クリエイティブリード/サービスデザイナーの佐々木康裕氏の2人。渡邉氏がtakramのものづくりにおけるメソッドを紹介した前半の「振り子の思考」のセッションをおこない、佐々木氏が作り出したプロダクトを市場に投入する際に重要になることを紹介した「after 0→1」のセッションをおこなった。

振り子の思考

タイトルtakram デザイナー/ディレクター 渡邉康太郎氏

UIデザイン、プロダクトデザイン、空間デザイン、ブランディング、ロボット開発、アートインスタレーションなど多岐に渡るtakramの仕事を、渡邉氏はどのように捉えているのだろうか。

私たちはデザインもエンジニアリングも両方やりたい。その想いは社名にも込められています。従来の企業であれば部署が異なってしまうような領域を、オーバーラップさせていくことで新しい価値が生まれてくるのではないかと考えています。(渡邉氏)

takramでは、触れることができるもの、できないものの両方に取り組んでいる。触れられるものの極限には建築や空間があり、触れられないものの極限にはサービスやブランドといったものがある。そして二つの極の間には、いずれにも分類するのが難しい種々の複合領域プロジェクトが並ぶのだ。「究極的なイノベーションや体験といったものは、こういう領域を超えた取り組みから生まれるのではと考えています」と渡邉氏は語る。

ビジネス・テクノロジー・クリエイティビティの三角形

takramは最初、テクノロジーとクリエイティビティをいかに両立させるかという挑戦からスタートし、徐々にビジネス面にも注力するようになった。今では、ビジネス、クリエイティビティ、テクノロジーの3つが、バランスのとれた三角形を描くことを重要視している。 takramは、この三角形の頂点の間を行ったり来たりするような「振り子の思考」を実践しているという。これはどのクライアントに対しても、どんな製品開発でも変わらない作法となっている、と渡邉氏は語る。 takramが実践している代表的な振り子は「プロトタイピング」、「ストーリー・ウィーヴィング」、「プロブレム・リフレーミング」の3つだ。この3つの振り子の運動を順番に紹介していく。

プロトタイピング

『プロトタイピング』は色々な目的で使い分けることができます。まず、より良いプロダクトを作るための『改善』を目的としたもの。また、手を動かして作ってみることで初めて分かることも数多くあるので、『発見』を目的にプロトタイピングすることもあります。そして、言葉で説明するだけでは共有できないようなイメージを共有するという『コミュニケーション』を目的としたプロトタイピングもあるでしょう。(渡邉氏)

たとえば「照明」のプロダクトを作ろうと2社の間で話が進んでいたときに、プロジェクト初期では、2社が抱いている「照明」のイメージが異なることの方が多いだろう。こうした場合、「プロトタイピング」を行い、形にすることで両者のイメージのギャップを埋めることが可能になる。コミュニケーションに寄与するプロトタイピングだ。

ストーリー・ウィーヴィング

大きな組織でものづくりをする際、デザインとエンジニアリングに同時進行で取り組むことは難しく、つぎはぎになってしまうことが多い 。仮に同時進行ができたとしても、デザインやエンジニアリングの要点をお互いの所属する部署に深く理解してもらうことは困難だ。その他にも、例えばUXに理解がない役員が会社にいたとして、 その人にもプロジェクトの良さをわかってもらうためのなんらかの「評価軸」をもってもらわないといけない、そう渡邉氏は語る。

プロダクト開発はプロトタイピングを重ねながら少しずつ改良していきます。その際、ウォーターフォール式のように、部署から部署へバケツリレーのように情報を受け渡すような開発の仕方では、良いものは作ることができません。開発の途中での巻き戻し、改変や改善を許容する。それを部署の枠組みを超えて行うことはできないか、そう考えて生まれたのが『ストーリー・ウィーヴィング』です。(渡邉氏)

最初にコンセプトを決定し、それを変化させないままものづくりを進めると、最終的に出来上がったものが当初のコンセプトからずれてしまうことは珍しくない。作ることで初めて得る気づきがあったり、開発の過程で状況が変化したりするため、本来は至極当然なことだ。それを許容できるよう、プロトタイピングとコンセプト設定の間を振り子のように行ったり来たりする。ものづくり・ものがたりを相互作用させるのが「ストーリー・ウィーヴィング」という手法だ。

ストーリー・ウィーヴィング』は、ものづくりの開発プロセスに、ものがたりのDNAを組み込んでいこう、という考え方です。これは様々なプロジェクトを経験して、失敗体験も踏まえながら形作られていった手法です。上手くいかなかった打ち合わせの後に、なぜ失敗したのかを見つめなおし、ものづくりのプロセスそのものをデザインするべきなのでは、と考えたのです。(渡邉氏)

takramと仕事をしているクライアント企業の内部では「ストーリー・ウィーヴィング」が段々と浸透してきているそうだ。takramとしてはより多くの人にこの手法について知ってもらうべく、ワークショップ型の研修を実施している。

ワークショップを開催した際に生まれるひとつひとつのアウトプット(作品)も重要ですが、加えて意識しているのは、このワークショップを通じてtakramが実践する作法を知ってもらうこと。また、一方的なノウハウの伝達に終始しないよう、ワークショップに参加した各チームが独自に発案・実施した『メソッド』があれば、それを発表してもらうようにもしています。どんな仕事の進め方がよりよいかを、参加者全員で議論しあうことができる場になっています。(渡邉氏)

ワークショップには、これまでに産学官問わず様々な組織が参加している。その組織での商品企画やコンセプト構築など、実際のプロジェクトの一部として開催したり、人事研修としても開催することもあるという。

プロブレム・リフレーミング

渡邉氏が最後に紹介した手法は「プロブレム・リフレーミング」。この手法を紹介するにあたり、takramが「荒廃した未来の地球での水筒をいかにデザインするか」というテーマでグループ展に参加し、コンセプトモデルを作ったときのエピソードを紹介してくれた。

最初は、遺伝子レベルでデザインした野菜を未来の水筒ととらえ出展しようとしました。そうしたら、展示ディレクターから『ありきたりだね』と言われてしまい、作りなおすことになったのです。そこに至るまでにずいぶんのアイデア上の試行錯誤を経ていたので、このときに気づいたのが、そもそもの『水筒を作る』という問い自体に限界があるということ。そこで『未来の水筒』を考えるのではなく、『人間と水の究極的な関係』を考えるというところまで、問題を拡大して解釈するようにしました。そうすることで、そもそも人が水を摂取しなくてもよいような状態を創出するという視点を持つことができ、人体そのものを水筒化するべく、人工臓器群をデザインするという発想が生まれました。(渡邉氏)

「問いの質が答えの質の限界である」という言葉がある。「リフレーミング」は、問題の枠組みを一度外して思考することで、より本質的な答えに至るという手法だ。日本のビジネスシーンでは、問いを研ぎ澄ます時間の重要性が過小評価されている。

問いを設定するために、エクストリームユーザーの声を聞いたり、行動観察する中でインサイトを見つける努力は様々な企業が実施している。だが、問いは一度設定したらそれで終わりではない。「問いの更新」を行っている組織は、ほとんどない。そう渡邉氏は語る。

問いを再設定する。これをプロジェクトの中で何回か行うことができれば、これまでとは違ったレベルのものづくりが可能になります。(渡邉氏)

「プロトタイピング」、「ストーリー・ウィーヴィング」、「プロブレム・リフレーミング」の3つの手法を活かし、takramは様々なモノづくりを実施している。だが、彼らが関わるのはモノを作る「0→1」の段階で終わらない。生み出したプロダクトをいかに浸透させていくかという「1→n」のフェーズにおいても関わっている。

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