収録している先進事例の多さが魅力
みなさんこんにちは。Biz/Zine編集部の渡辺です。本日は、2025年6月に出版された書籍『実践 日本版FP&A―CFOが企業価値を高める経営管理の組織と手法』をご紹介します。

3,630円(税込)池側千絵(著)中央経済社
みなさんはFP&Aという機能をご存知でしょうか? 「Financial Planning & Analysis」の略で、企業の経営管理・管理会計に携わる人材・組織・業務を指します。欧米の先進企業では一般的に見られる職種であるものの、日本において導入している企業はまだ少ないのが現状です。
本書は、日本でも導入する企業が徐々に増えつつあるFP&A機能を掘り下げた一冊です。FP&A先進国である米国の企業と日本企業の構造的な違いを明らかにした上で、日本企業に導入する場合のステップやポイントをわかりやすく解説しています。第Ⅱ部には富士通や味の素、キリングループなど、実際にFP&Aを導入している日本企業の先進事例を収録。様々な業種や規模の企業で活躍する現場担当者の生の声を通して、FP&Aの導入イメージを具体的に膨らませることができます。
400名規模のベンチャー企業でも導入が進む
職種としてのFP&Aは、具体的にどのような動きをするのでしょうか? 欧米企業ではCFOの下に配置されるケースが一般的なようです。経営者や事業責任者が戦略や経営計画・事業計画の策定、予算管理、投資案件の評価などを行う際に、事業を深く理解しつつ業績目標の達成度や意思決定の質を高める支援をするのがFP&Aの役割です。
多くの日本企業では、経理部門や経営企画部門の担当者がFP&Aの役割を担っていると言えます。しかし、経理部門や経営企画部門が属する本社機能と、事業部門が分離しているケースも多く「両者の間には壁が存在する」と著者は述べています。
FP&Aは各事業部を担当。事業部長の「ミニCFO」として、事業計画の策定や進捗、コスト抑制などを管理する。本社と事業部をつなぐ潤滑油の役割もあり、CFOにも報告ラインを持つことで、事業ポートフォリオの管理を支える(P.3)
著者によると、FP&A機能を導入するメリットは企業にも個人にももたらされるそうです。
企業のメリット
・ポートフォリオを適切に管理できるようになる
・事業部門における意思決定の質を高められる
個人のメリット
・管理会計の担当者が専門職として認められるようになる
・担当者がキャリアパスを描きやすくなる(CFO、事業責任者、経営者など)
具体的な導入のステップは主に第4章で取り上げられています。私が特に興味深く読んだ内容は、第8章に収められたI-ne(アイエヌイー)の導入事例です。設立からわずか18年、従業員数400名弱(2024年12月時点)の同社が、味の素や富士通などの老舗企業に並んでFP&A組織を設置している点に驚きました。成長著しいベンチャー企業におけるFP&A組織の構築プロセスからは、多くのヒントが得られるはずです。
堅実な雰囲気の装丁から難解な印象を抱くかもしれませんが、入門書にふさわしい解説内容と、インタビュー形式でまとめられたふんだんな導入事例が読み手にやさしい一冊です。経営管理・管理会計業務を担う方はもちろん、事業部門に所属する方も、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。