百貨店という「リアルチャネル」の接客シーンにリコメンド機能を実装するには
ECの領域では、顧客への商品・サービスのリコメンド機能は至極当たり前のものとして存在します。しかしながら、リアルチャネルにおける対面販売においては、直接的に顧客に商品をリコメンドするというシーンは限られています。
もちろん、飲食店などでタッチパネル画面に「本日のおすすめ」などを表示することはあるでしょうが、個人別のカスタマイズが為されているわけではなく、すべて一律のルールベースの表示になっているのが一般的な仕様であると考えられます。
では、百貨店という「リアルチャネル」の接客シーンにリコメンド機能を実装しようとする際には、どのようにすると良いでしょうか。
我々ギックスのアプローチでは、「接客担当者」がDIになることを目指します。接客担当者が、データ分析の結果を確認し、それを元に論理的に考えて合理的な判断を下すことができるように業務を変革していくわけです。
そのためには、顧客の過去の購買データに基づいて、どういうタイプの商品を、どういうタイミングで購入しているのかを理解することが求められます。データ分析によって、好きな色の組み合わせや、好みのブランドや衣服のタイプを導き出したり、セール品を好むのか新作を欲しがるのか、サイズ感は、ゆったりしたものとタイトなもののどちらを好むのかなどの傾向を理解したりするわけです。
そうした好みに対して、今年の流行のカラーやデザイン、あるいは、個別の商品の特徴情報を掛け合わせて、「その顧客が欲しいと“思いそう”な商品」のランキング(あるいは、スコア)を導出します。
このような計算処理を人間が行うのは、とても手間がかかりますし、目の前のお客様への対応に間に合いません。そのため、大量のデータを分析するシステムを用意し、その分析結果を現場担当者(この場合は、接客担当者)に渡すための仕組みを構築することになります。
こうして導き出したランキング情報を、接客担当者の手元のタブレットに表示することで、接客担当者は「どの商品をおすすめするか」を、タブレットに表示された客観的なデータと、自分の頭の中の主観的な情報を組み合わせながら考えることができます。まさに「データ“も”用いて考える」わけです。
当然ながら、アルゴリズムによってリコメンドされたものが、必ずしも正解であるとは言えません。アルゴリズムには限界があります。そもそも、その人が、別の百貨店やアパレルショップで購入した服の情報は、購買履歴からは導き出せません。もっとシンプルに言えば「その人が、今日、何を着ているのか」さえも、アルゴリズムの計算においては加味されないのです。
さらに言えば、目の前の顧客が「過去に買っているものと、似たものを買いたいのか」「少し新しいものに挑戦したい気分なのか」も、アルゴリズムには組み込めません。そのため、接客担当者が、相手との会話の中で、リコメンドリストを“参考に”しながら、何を提案すべきかを考えることが重要になってきます。これが、現場のDIが目指す姿です。
一方で、「過去の購買傾向と類似したおすすめランキング」とは別に、「新しいものに挑戦したい人向けのおすすめランキング」の2種類を用意しておくことは可能です。後者は、「今まで買ったことが無い色」「今年の流行色・流行デザイン」などの優先度を高くしつつ、昨年の同時期(つまり同じ季節)に購入したものとのコーディネート性などの観点でランキングを作ります。
この2種類のランキングを、タブレット上で切り替えることで、接客担当者は、顧客が求めるものを、より精度高く探すことができるようになります。
接客後に、「どの商品を購入したのか」は購買履歴として残りますので、次回以降の接客に活かされます。それに加えて、「どの商品を、すすめたか」「その商品に対する反応は良かったか」「ランキング外の商品で反応が良かったものは何か」などの情報を接客担当者が入力することにより、アルゴリズムの精度を高めることも可能です。
今回の例における現場のDI、すなわち、現場のデータインフォームドは、現場の接客担当者が、「データ“も”用いて、自分の主観的情報(勘・経験)を補強しながら業務を行う」ようにガイドする仕組みと、それを活用することで変革された接客担当者の行動(ビヘイビア)なのです。