事業部に派遣された横串組織のメンバーが担うべき役割とは
藤井:事業横断についてもう一つ気になるのが、各部門の上位レイヤーとDIPの関係です。事業横断の取り組みにおいて、DIPと各部門の責任者はどのように関わり、どのような形で意思決定を行っているのか気になります。
ベネッセさんには「校外学習事業」、「学校向け教育事業」、「大学・社会人事業」、「介護・保育事業」の4つの事業部門がありますよね。この部門長たちとDIPはどのようにコミュニケーションを取っているのでしょうか。
水上:定期的なコミュニケーションの場としては、月一回、DIPの部門長と各事業部の部門長とで定例会議を開催しています。その会議では、毎月のDIPの活動状況や活動における課題を共有し、事業部側の意見を求めたり協力を仰いだりします。
藤井:その定例会議で具体的な顧客体験の連動を提案するわけですか。「このサービスのこの顧客接点と連動させましょう」といった。
水上:いいえ、そうした個別具体的な取り組みについては、各事業部内で主体的に行われます。定例会議で議論されるのはもう少し抽象的な論点ですね。
藤井:「各事業部内で主体的に行われる」とは、具体的にどのような動きを指すのでしょう。
水上:各事業部にはサービスごとにDIPのメンバーが派遣されているので、その者を中心に事業部内で顧客体験の連動について議論して、部門長の承認が得られれば実行するといった形です。
例えば、学校向け教育事業では「ミライシード」というサービスを提供しています。ミライシードは義務教育向けICTソフトで、子どもに向けてAIドリルやデジタルテストを提供する一方、先生向けに学習状況の管理や教育効果の可視化などの機能を提供するサービスです。
このミライシードのチームにも、DIPのメンバーが専任担当者として派遣されており、事業全体のカスタマージャーニーなど踏まえて、部門長やその他の役職者を巻き込みながら顧客体験の連動を推進します。
藤井:それは素晴らしい仕組みだと思います。その専任担当者は、顧客体験の連動を提案するだけでなく、部門長を動かして取り組みを推進することもミッションに含まれているわけですね。
水上:そうです。職能としてはPdMに近い存在かもしれません。以前は、そうした役割は担っていなかったのですが、DIPとして活動を続けるうちに、各事業部での意思決定にも関与しなければなかなか取り組みが進まないことに気付きました。単にDIPの一員として外から事業部を支援するのではなく、事業部の中に深く入り込んで、部門長の意思決定にも影響を与えられるような存在でなくてはいけないんです。
藤井:なるほど。それは重要な指摘ですね。昨今、事業横断型の横串の組織を設置する企業は少なくありません。そこには、各事業部の縦割りを廃して、組織内のリソースを有効活用し、事業間でシナジーを生んでいきたいという意図があります。しかし、横串の組織を設置し、担当者を派遣しただけでは不十分で、その担当者が各事業部でどのような動きをするのかも重要だということですね。担当者のミッションや職能にも気を配る必要があると。