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AIが変える創造性の未来──次代のクリエイティブにおける人間の“役割”とは

第4回

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 AIの進化により、クリエイティブの世界は大きな変革期を迎えています。今回は、AIが主導するクリエイティブと人間が主導するクリエイティブの二極化、そしてAIによる「美しさ」の測定など、最新の動向を解説します。さらに、これらの変化が示唆する、人間とAIの協働がもたらす新たな創造性の可能性を探究します。

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クリエイティブの世界で進む二極化

 近年、AIの急速な発展により、クリエイティブの世界は劇的な変革期を迎えています(本稿でのクリエイティブとは、広告、デザイン、コンテンツなど、創造的な表現をともなう制作物全般を指します)。この変革は、大きく2つの方向性に分岐しつつあります。1つは「AIが作ることが前提である世界」、もう1つは「人間が作ることが前提である世界」です。

 「AIが作ることが前提である世界」では、AIがクリエイティブコンテンツを生成し、その効果を分析し、そして分析結果を基に新たなコンテンツを創出するという、データ駆動型の最適化サイクルが確立されつつあります。この傾向が最も顕著に表れているのは、デジタルマーケティングの分野です。この領域では、大量のユーザーデータと明確に定義されたクリエイティブフォーマットが存在するため、AIによる創造プロセスの完全自動化が急速に進展しています。

 たとえば、大手ECサイトのAmazonは、2023年4月にAIを活用して商品の説明文や広告コピーを生成する「AI-generated content」ツールを導入しました。このツールは、出品者が提供する基本的な商品情報を基に、魅力的で情報量の多い商品説明を自動生成します。一例を紹介すると、出品者がキーワードや商品の特徴を入力すると、AIがそれを元に複数のバリエーションの説明文を作成し、出品者はその中から最適なものを選択できます。これにより、特に小規模な出品者が高品質な商品リストを簡単に作成できるようになりました。

 また、ソーシャルメディア広告では、ユーザーの属性や行動履歴に基づいて、AIがパーソナライズされた広告クリエイティブを瞬時に生成し配信するシステムが実用化されています。

 FacebookのDynamic Ads機能は、ユーザーの行動履歴や興味関心に基づいて、リアルタイムでパーソナライズされた広告を生成・配信します。たとえば、ある靴のオンラインショップのウェブサイトを訪れたユーザーがいた場合、そのユーザーが閲覧した靴の画像と、そのユーザーの属性(年齢、性別、居住地など)に合わせたコピーを組み合わせて、カスタマイズされた広告をFacebook上で表示しています。さらに、ユーザーの過去の購買行動や閲覧履歴を分析し、最も反応しそうなタイミングで広告を配信することで、高い効果を実現しています。

 これらのシステムでは、クリック率や購買率などの指標を最大化するよう、AIが24時間365日休むことなく最適化を続けています

 一方、「人間が作ることが前提である世界」では、人間がAIを創造的パートナーとして活用しながら、新しい表現を生み出しています

 この協働のアプローチは、実は新しい概念というわけではありません。歴史的に見れば、カメラやコンピューターなどのテクノロジーの進化は、常に人間のクリエイティブな表現方法を拡張し、変革してきました。AIもまた、この技術進化の延長線上に位置づけられます。

 記憶に新しい例としては、2023年に作家の九段理江氏がChatGPTを活用して執筆した小説が芥川賞を受賞し、大きな話題となりました。九段氏は、AIをアイデアの発想や対話文の原案作成に活用したとインタビューの中で述べており、国内では人間とAIの協業として象徴的な事例となっています。

 映像制作の分野でも、人間とAIの創造的協業は急速に進展しています。たとえば、ブロックバスター映画「アベンジャーズ:エンドゲーム」における視覚効果制作が挙げられます。本作では、主要な敵役であるサノスのキャラクターに対し、AIを活用した最先端の画像生成技術が適用されました。この技術の導入により、従来の手法では再現が困難だった繊細な表情の表現が可能となりました。具体的には、目の周囲の微細な筋肉の動きや、皮膚のテクスチャの微妙な変化などが、人間の手作業ではできない精密さで再現されています。

 音楽制作の分野では、Amper Musicが、AIを使って様々なジャンルの音楽を自動作曲するプラットフォームを提供しています。感情キーワード(「明るい」「エネルギッシュ」など)やジャンル(「ポップ」「ロック」など)、そして楽曲の長さを指定すると、それに合わせた楽曲がAIによって数秒で生成され、人間のミュージシャンは、このAI生成された楽曲を基に、メロディーラインを変更したり、新しい楽器パートを追加したりしてアレンジを加えることで、独自性のある新しい楽曲を作り出しています。

 このように、AIの台頭により、人間のクリエイティブプロセスが様々な側面において劇的に変化しています

 AIは単なる効率化ツールを超え、人間の想像力を刺激し、これまで技術的制約や時間的制約によって実現困難だった表現を可能にする、まさに創造の触媒としての役割を果たしているのです。

 今後、クリエイティブの世界はますます2つの方向性に分かれていくことが予想されます。

 「AIが作ることが前提である世界」では、効率性と即時性が重視され、データに基づく最適化が進むでしょう。一方、「人間が作ることが前提である世界」では、AIを活用しつつも、人間ならではの感性や創造性が重要な役割を果たし続けると考えられます。

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この記事の著者

岩井 大志(イワイ ダイシ)

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