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ISO56000シリーズの誤解と本質──効率経営からイノベーション経営へ移行する組織デザインとは?

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日本企業にとっての知識創造理論とISO56000シリーズ

 さて、ISO56002に基づいて作成したIMSコンパスを今一度見ていただきたい。イノベーションというのは「試行錯誤するという仕事である」が、IMSコンパス上からは、いわゆる失敗も失敗でなく、ポジティブフィードバックとしてシステムのインプットとして捉えることが重要だ。

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 イノベーションはルールを超えるところに鍵がある。世界はイノベーションの理解と実践を通じてこのフレームワークを生み出したと言える。ISO56000におけるイノベーション活動はその典型であり、「機会の特定」から「ソリューションの導入」まで、ウォーターフォール型でなく、いわばアジャイル、非線形的な知識創造プロセスが提示されている。言うまでもなく「知識創造理論(SECIモデル)」は日本発の世界で認められたイノベーション理論だ。著者はこのISO56000を単に海外の機関が制定したルールではないと考えている。

 このISOの中核になるのは知識創造だが、これを支える組織体制、能力、場がより重要になる。そして決定的に重要なのは組織的リーダーシップだ。

 ISO56000の背景には、長年にわたる世界の実務経験と学術的研究がある。すでに戦略、リーダーシップ、組織文化がイノベーションにとって重要な成功要因であることが分かっていた。しかし、それらがイノベーション経営という枠組みで統合されてこなかったので、イノベーション活動を促し、持続可能な成果を効果的に達成するための体系として整えられていったのだ。

 日本企業にとって大きな挑戦は経営システムの変革だ。日本企業は高度成長期を通じて、QMS(品質マネジメントシステム、ISO9000)という極めて強力な経営システムをベースに成長してきた。QMSは非常に強力でものづくり大国を支えてきた。ISO9000の取得に当たっては苦い経験を持つ企業も多い。

 しかし今、過去の経営システムだけでは大きな環境変化を乗り越えられなくなっている。求められるのは、創造性やイノベーションを軸にした経営システムへのアップグレードであり、「QMS+IMS」とも言える経営活動の体系化だ。これまでのシステム的な経営の強みをもとに、イノベーション活動との合成ベクトルをいかに生み出すかが課題で、この点が実は海外企業からは大きく期待されているところである。

 ISO56000シリーズで最も重要なのは「イノベーション経営のプリンシプル」である。そこでは試行錯誤や挑戦の組織文化を構築することが求められていると言えるが、日本企業にとっては失敗に対する態度を変化させることが課題だ。といっても、単に「挑戦しろ」、「失敗を恐れるな」、「ファーストペンギンになれ」と言われても動く人は多くないだろう。むしろ、失敗に対する新たな組織的アプローチが必要だ。それは失敗を無くそうとする失敗のサイエンスでなく、失敗をポジティブフィードバックに変えシステムだ。根幹に「輝かしい失敗」の考え方を取り込むことの意味合いは大きい。

 なぜ企業はイノベーションで失敗してしまうのか。目的がはっきりしていない、データが不足している、様々な落とし穴があるといった要因ゆえである。IMSにおいては「イノベーションとは試行錯誤するという仕事」という認識に立って、失敗=フィードバックをいかに先見的に取り込むかを重視するのであって、失敗を起こさないようにしたり、失敗を分析したりするのでない。

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資料提供:一般社団法人Japan Innovation Network/クリックすると拡大します

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日本でイノベーションが起きない最も大きな弱みが「エコシステム」

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この記事の著者

紺野 登(コンノ ノボル)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

尾﨑 弘之(オザキ ヒロユキ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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