世界の製薬ビジネスをリードする中外製薬の人材マネジメント
企業が長期的かつ継続的な成長を実現しようとするとき、人材育成をはじめとする人材マネジメントはどのようにあるべきか。本セッションでは、国内を代表する製薬企業であり、今なお成長を続ける中外製薬の事例をベースに議論が展開された。
中外製薬の2024年度決算[1]における売上収益は約1兆1,700億円、営業利益は約5,600億円と40%超の営業利益率を誇る。営業利益は初めて5,000億円を上回ったもので、世界トップクラスの創薬技術を武器に継続的な成長を実現している。
こうした中で、中外製薬がさらなる競争優位の獲得と持続的な利益成長、企業価値拡大を目指して掲げたのが「TOP I 2030」だ。「TOP I 2030」は2021年から2030年までの10年間にわたる成長戦略。名称には「日本ではなく世界のトップイノベーター」を目指す想いが込められている。そのため、同戦略には中外製薬が2030年に到達したい「トップイノベーター像」や、その実現に向けての目標として「R&Dアウトプット倍増」「自社グローバル品毎年上市」という2本の柱を盛り込んだ。さらに、2本の柱を実現するための具体策としては「5つの改革」が掲げられている。
「5つの改革では、新薬ビジネスの主要なプロセスである、創薬、開発、製薬、Value Delivery (営業等)の4プロセスに加え、それらを支える成長基盤という5つの領域で具体的な改革に取り組みます。この中で、セッションのテーマである人材マネジメント、中外では『人財』としていますが、この取り組みが盛り込まれているのが成長基盤の領域です。ここでは、いかに多様な人財の能力を発掘、成長、発揮させるのか。さらに、新薬ビジネスに欠かせない高度専門人財をいかに獲得、維持、育成していくのかといった観点で各種施策に取り組んでいます」(小野澤氏)

上記の指針に沿って、現在、中外製薬では人事制度改革をはじめとした人材マネジメントの改革に取り組んでいる。そのコンセプトが「個を描く、個を磨く、個が輝く」。社員一人ひとりが自らのキャリアや意志を描き(個を描く)、その実現に向けてスキルや経験を養い(個を磨く)、そこで得た力を発揮しやすい環境を整える(個が輝く)、という3つのフェーズで人材マネジメントを整理し、各フェーズに適した施策を策定・展開している。

小野澤氏に続き、ストラテジーキャンパス代表取締役の中村陽二氏も自身の経歴や現在の活動について紹介した。中村氏は2014年に新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社したのち、事業再生の支援会社を設立。企業の買収や事業再生、売却を経験し、その後も上場企業の取締役やエンジェル投資家など、さまざまな立場で事業の創出や拡大に取り組んできた。現在は国内外の新規事業や投資に関するアドバイザリーを手がけるストラテジーキャンパスの代表を務める。2024年には自身の経験や複数の起業家へのインタビューをもとに執筆した『インサイト中心の成長戦略』(実業之日本社)を出版した。
「著書である『インサイト中心の成長戦略』では、事業創出のプロセスを領域探索、インサイト発見、事業立ち上げの3つのプロセスで解説しました。ここでいうインサイトとは、新たな事業を立ち上げる際の判断基準となる“勝ち筋”のようなものです。具体的には、インサイトは3つの条件で構成されます。1つ目が、顧客がお金を払ってでも欲しい価値に対する強い需要。2つ目が、顧客が先行者の商品やサービスに満足していないこと。3つ目が、自社ならばできるという自信があること。『インサイト中心の成長戦略』では、この3つの条件が揃うことをインサイトの発見としています」(中村氏)


こうした自身の経験などから体系化した戦略論に基づき、中村氏は中外製薬の成長の原動力と、人材マネジメントの本質に切り込んでいった。
[1]2025年1月30日発表。IFRS Coreベース