若手町長が行動から希望を見出した、新潟県津南町の隠れた価値
基調講演の次に登壇した新潟県津南町の町長・桑原悠氏は、25歳という若さで都市部から地元にUターンし、町議会議員を経て町長に就任した。桑原氏は、「希望がないから行動しないのではなく、行動するから希望が生まれる」という信念のもと、人口減少と高齢化が進む中山間地域において、持続可能な自治体経営に挑み続けている。

津南町は新潟県最南端に位置し、長野県と県境を接する。新幹線の越後湯沢駅から車で1時間程度と首都圏からのアクセスはまだ良好なほうだが、冬は日本有数の豪雪地帯となり、積雪が3メートルを超えることもある。
しかし、津南町では雪を負の要素ではなく観光資源と捉え、内外にその魅力を発信してきた。その雪は豊かな水源にもつながっている。高低差もあることから、かつて津南町では東京電力の発電所群が「水力発電の教科書」とも称され、盛んであった。現在では投資家の注目を集める小水力発電の開発も進んでいる。このように、地域資源を活かすことで、厳しい雪の条件を強みに変えている自治体だ。
町の基幹産業は農業だ。特産品である「雪下にんじん」は、雪の下で育つことで糖度が高まり、フルーツにも肩を並べるほどの甘みがある。また「津南の天然水」は、品質の高さからファミリーマートのプライベートブランド、そしてANAとJALの機内提供用の水にも採用されている。他にも、魚沼産コシヒカリ、アスパラガス、スイートコーンなど高品質の農作物を全国へと供給している。
津南町では農家の法人化を後押ししており、30〜40代を中心とした農業法人が増加している。また、ドローンを活用したスマート農業の導入も進んでおり、町内ではすでに50名以上が操縦資格を取得。国の制度に先駆けて、実践的な次世代農業モデルを構築しつつある。
医療面では、深刻な医師不足に対し、東京など都市部在住の医師が二地域居住で交代勤務する仕組みを町立病院で実証。「二人で一人分の常勤医」という発想で体制を整え、持続可能な地域医療を目指している。
人口減少下の地域で強みを見極め、企業連携に活路を
人口減少という現実を前に、津南町では「適応したまちづくり」が求められていると桑原氏は語る。何も対策を講じなければ、地域経済や行政サービスが立ち行かなくなり、住民生活の質も低下してしまう。一方で、津南町には誇るべき産業や地域資源が今も数多く残されており、地域経済に真正面から向き合えば、明るい未来を切り拓けると桑原氏は強調する。

町では既存事業の見直しと新規施策を両立する「二方向のアプローチ」を掲げ、具体的には、小学校や保育園の統合など、将来を見据えた事業のスリム化にも踏み切っている。
一方、新しい挑戦として、企業との連携事案も多く展開する。AirJapanとの連携以外にも、町職員の発案による「つなホン」プロジェクトが紹介された。シャープ製のロボット「ロボホン」を観光大使に起用したことがきっかけとなり、ロボホンユーザーによる“聖地巡礼”が増え、それに応じて、マップやユーザー歓迎のステッカーを作成するなど受け入れ体制の整備も進む。


こうした動きはギックスとの連携[2]でさらに加速した。デジタルスタンプラリー「巡って、食べて、泊まって つながる、つなんスタンプラリー」では、つなホン関連スポットや「大地の芸術祭」と連携した周遊動線を設計し、来訪者の体験と地域経済への波及効果を高めている。町民や観光客の行動データを収集・分析し、次の施策に活用する仕組みも整備されつつある。
桑原氏は「内」と「外」が連携する共創こそが地域の力になると語る。自前主義にとらわれず、外部の力も柔軟に取り入れることで、持続可能な地域の未来を築いていく構えだ。
[2]株式会社ギックス『ギックス、新潟県津南町と地域活性化推進パートナーシップを締結 観光客回遊・関係人口増加・雇用創出に向けた各種取り組みを推進』(2024.10.09)