新Vポイント誕生の裏側にあった両社のジレンマ
三村:CCCはTポイントを、SMBCはVポイントをそれぞれ展開していた手前、統合には反対意見もあったと思います。お二人はそれをどのように克服なさったのですか?

磯和:「統合すると自社で囲い込めないのでは」という声が多く、社内では大きな反発が生まれました。ただ、当時からOliveのUXを向上する目的でSBI証券やライフネット生命への出資をしていたため「ポイントだけ自前志向にこだわらなくても良いのでは?」というメッセージングを社内で続けた結果、ようやく理解を得ることができたんです。
三村:磯和さんの突破力の賜物ですね。
磯和:突破力ではありません(笑)。丁寧に説明するほかないですよね。
三村:CCCの社内でも相当なジレンマがあったのではないでしょうか?
髙橋:もちろんです。「自分たちが共通ポイントを世の中に生み出した」という自負もありましたから。ただ私は、決済機能の弱さに課題を感じていたんです。決済領域でどこかと組む場合、SMBCほど理想的なパートナーはいないと考えました。
Tポイントの名称には並々ならぬ思いがありましたが、生活者に決済を意識してもらうためにはVisaを想起させるVポイントの名称がふさわしいでしょう。そのかわり、ロゴのトンマナだけは誰が見てもTポイントの名残を感じられるようにしました。その点は譲れなかったですね。
三村:両社のイノベーティブな組織文化が結実した素晴らしい統合だったのだと、お二人の話を通じて改めて実感しました。
人間の認知限界を超えた組織構造へ
三村:次のトークテーマは「AI時代におけるイノベーティブな組織文化の育み方」です。生成AIの登場によって組織文化の作り方にも変化が生じていると推察しますが、磯和さんはどうお感じですか?
磯和:まず、組織文化の前に組織構造が大きく変わります。今の組織は、人間の認知限界に基づいて作られているんです。顔と名前が一致する相手の数はせいぜい100人程度ですから、たとえば法人部は100人程度で組成されます。ただ、100人だけではとうてい仕切れないため、法人統括部や法人戦略部、法人業務推進部などの組織が生まれます。
AIは、このようにして生まれる部門の壁をぶち壊せるような気がします。なぜなら、AIを使えば1万人の顔と名前も一致するからです。つまり、人間の認知限界のために組織の構成人数を100人にする必要がなくなります。組織の形や規模が大きく変わる中、イノベーティブな文化をどう残していくか。この点にはもう一工夫が必要でしょう。
三村:続いて、髙橋さんの考える「AI時代におけるイノベーティブな組織文化の育み方」を教えてください。
髙橋:私も磯和さんと同じく、組織の在り方や運営方法が変わると考えています。会議の数や質も変わるでしょう。従来のやり方がひっくり返るタイミングは、一発逆転のチャンスとも言えます。世の中の新しい動きを読み、時間とAIを味方につけた人が、日本の次の産業界を牽引すると思うんです。
三村:よく「AIに仕事を奪われる」と言われますが、正しくは「AIを活用する人に仕事を奪われる」のかもしれません。御社ではAIの活用をどのような形で奨励されていますか?
髙橋:全社員にAIが使える環境を用意し、ポリシーも策定しました。7月末から約20名のメンバーを選抜して未来の経営陣を育成するプロジェクトが走っているのですが、そこでもAIの学習プログラムを用意しています。
磯和:賢い人に言わせると、産業革命は筋肉の外部化だそうですよ。蒸気機関で筋肉を外部化した結果、人間の職が失われたかというと、逆に生産性が上がりましたよね。今度はAIで頭脳を外部化しているわけですが、これによって人間が担う仕事は飛躍的に増えるような気がします。