センターピンは「70代以上の女性」。顧客の潜在意識まで深掘りし辿り着いた「自己実現」ニーズ
──具体的にはどのように戦略を落とし込んでいったのでしょうか。
舘川:最初に策定したのが、戦略における「Who(ターゲット)」です。カテゴリーは企業のものではなく、顧客の頭の中にあるものというのが我々の定義ですので、誰の頭の中にカテゴリーを作るのかを定める必要があります。自社生産のいちごを誰に届けるのかを定める中で、「コアターゲット」と「戦略ターゲット」という2つに分けて考えていきます。
ここでまず重要なのが「コアターゲット」です。これは一般的なマーケティングにおけるターゲットとは趣が異なり、より広い範囲に価値を波及させるための“中心点”となる存在を指します。このコアターゲットを過去の販売データなどから炙り出し、最終的に「70代以上女性の家族用フルーツ購買層」と設定しました。
あわせて「戦略ターゲット」は「30-50代の自分へのご褒美を探す層」「30-40代共働き 非日常を味わいたい層」を設定し、どのように価値を波及させていくかを考えました。
データを見ると、高齢の女性が高品質のいちごを買う傾向にありました。この背景は、自ら消費するためというよりも、「家族へのお土産に品質の保証されたフルーツを持ち帰りたいから」です。さらに掘り下げると、彼女たちは「自己実現」のためにいちごを購入しているという仮説に辿り着きました。
「自分が買ったいちごで家族が喜ぶ姿を見ることによって、自分が満足したい・自己実現をしたい」という心理は、普段顧客と接している近鉄百貨店様のプロジェクトメンバーの皆様からも非常に納得感があるというコメントをいただきました。
この仮説をもとに、商品を展開するにあたって、購入者の自己実現をより引き立てる情報やイメージを打ち出すべきと考え、提供価値を定義するステップに移りました。このように、カテゴリー戦略では「Who(ターゲット)」でコアターゲットを定め、そのインサイトを深掘りしていくことで、「What(独自価値)」が顕在化していきます。
「Who」と「What」の言語化がいちご事業の“背骨”となる
──購入者の自己実現を後押しする情報とは、具体的にどのようなものだったのでしょうか。
舘川:新鮮さはもちろんですが、「大阪で生産されている」というのがポイントでした。電車で30分ほどの近隣で生産されているからこそ、前日に摘んだ新鮮ないちごをお客様は購入できる。このストーリーは「それほど新鮮なフルーツを手渡している」という顧客の満足感を高めますし、何よりこんな商品ありませんから、お土産を渡す際の会話のネタにもつながるはずです。
ここから「都会のごちそう 近鉄の大阪いちご」というコンセプトとカテゴリーが考案されました。「Who(ターゲット)」「What(独自価値)」を明確にすることで、単なる「いちご」ではなく、「大阪いちご」という新たなカテゴリーを構築できたわけです。
たとえば、「新鮮いちご」「朝採れいちご」のようなカテゴリーも候補としてはあり得るとは思いますが、コアターゲットの潜在的な「自己実現」に対する欲求に対しては不十分です。「このいちご、大阪で採れたんだって」「都会のごちそうって美味しそう」のようなターゲットとそのご家族の会話を思い浮かべながら議論を進めました。
また、定めておいた「戦略ターゲット」に対しても、「都会のごちそう 近鉄の大阪いちご」というコンセプトとカテゴリーに価値を感じてもらえるか検証しました。自分へのご褒美としても、非日常感を味わうという文脈でも十分に刺さると考えられたため、カテゴリーおよびカテゴリーの価値をもとに十分に多くの顧客に展開できると想定しました。
荒鹿:このとき印象的だったのが、カテゴリー戦略では「Who」と「What」が連動していることです。
私たちは小売流通業としてお客様の購入風景を日常的に目にしているので、70代女性が中心的な購買層であることはデータとして前提の理解をしていました。しかし、そのターゲットが“いちご”に対しどのようなニーズで商品を購入していて、どのような価値を届けるのが適切なのか、といういちご商材に対する顧客の潜在課題までは明確になっていませんでした。
susworkさんの手ほどきを受けることで、顧客層と提供価値を言語化できました。こうした顕在化していないニーズや商品の提供価値を、わかりやすいフレーズで言語化できるのがカテゴリー戦略の利点だと思います。別の言い方をすれば、susworkさんのおかげで、いちご生産販売事業に一本の“背骨”が入ったような感覚があります。
舘川:「Who」と「What」は組み合わせなんです。まさにパズルのピースのようにそれぞれが無数にある中で、どの組み合わせが最も強く結びつくかを見極めるのですが、その中でもやはりカテゴリー戦略では、いかに「顧客起点」に立てるかがポイントです。その点、近鉄百貨店様のいちご事業の皆さんは日常的に顧客に接しているので、消費者のニーズや課題に対する感度が高いと感じました。カテゴリーとは企業と消費者を結びつける「架け橋」のようなものです。その架け橋を渡すうえで、近鉄百貨店様のように実際の顧客の顔がイメージできることは大きな強みだと思います。
テレビや雑誌にも多数取り上げられた「大阪いちご」
──「Who」「What」の次は「How(コミュニケーション)」です。その後、「大阪いちご」を展開するうえで、どのような施策を実践したのでしょうか。
舘川:まずは顧客との最大のタッチポイントである「売り場」の設計が重要だと考えました。いちご生産販売事業の皆さんと議論を重ね、「大阪いちご」というカテゴリーを訴求するための売り場を作り上げていきました。
たとえば、店頭に飾るPOP。キービジュアルには、コアターゲットが自己実現をイメージしやすいよう、彼女たちから見た「家族で楽しそうにいちごを食べている写真」を採用しました。また、売り場に設置する幟には「大阪」「新鮮」「直送」といったフレーズを記して、独自価値の訴求を試みています。
また、売り場での接点だけでなく、デジタル上のタッチポイントづくりやPRにも力を注ぎました。具体的にはLPの制作や、SNSの運用、メディアリリースなどです。特にPRでは「大阪いちご」という地域性のあるブランド名が功を奏し、かなり早い段階でテレビ取材や雑誌の取材などを獲得でき、大きく露出することができました。このように、総合的なアプローチを通じて大阪いちごの魅力を幅広い層に訴求していきました。
荒鹿:実は「How」のフェーズは、通常のコンサルティングのイメージとは異なり、これまで以上にsusworkさんの支援に助けられた印象です。単に戦略を提示するだけでなく、リリースの文言や売り場づくりの細かい部分まで一緒に頭を捻ってくれることが有り難かったです。判断に迷ったときには、第三者的に構えるのではなく、きちんと責任を持って断言してくれる。カテゴリー戦略という初めての取り組みに不安も少なくなかったのですが、そうした真摯な姿勢のおかげで、チームが全力で走ることができたと感じています。

