SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

事業成長のためのマーケティング思考

五年後「誰に」「何を」届けるか? 生活者視点で事業の未来を描くマーケティングビジョンの策定ステップ

  • Facebook
  • X

 短期的な業績改善に注力するあまり、市場の構造的変化を見落とす「ゆでガエル現象」が、マーケティングと経営の両方で起きている。この現象を避けるためには「短期的な収益改善」と「長期的な価値創造」を両立させる思考が重要だ。本稿では、市場や顧客の未来を見据えた価値創造の方向性を示す「マーケティングビジョン」と、その策定ステップを解説する。

  • Facebook
  • X

未来の市場や顧客に向けた価値創造

 前回の記事では、マーケティングと経営の両方で“ゆでガエル現象”が起きていることを指摘した上で、ゆでガエル化を防ぐためには「短期的な収益改善」と「長期的な価値創造」の二軸思考が必要であると論じました。今回は、この二軸思考における長期的な価値創造を助ける「マーケティングビジョン」について掘り下げていきます。

 マーケティングビジョンは「市場や顧客の今と未来を見据えながら、自社が創造すべき新たな価値を明確にし、その価値を生活者に届けるための具体的な体験の絵姿を示したもの」と定義されています。これは、マーケティング部門が短期的な売上目標達成の役割を超えて、事業の長期的な方向性を定める戦略パートナーとして機能するための“羅針盤”に位置づけられます。

 従来のマーケティング戦略との違いを「時間軸」「焦点」「アプローチ」の観点から考えてみましょう。従来のマーケティング戦略では今後一、二年という比較的短期の時間軸で、既存事業の売上最大化を目的とした、対象顧客およびマーケティングミックス(4P:Product、Price、Place、Promotion)の最適化に焦点を当てていました。「今年の売上目標を達成するために、どのチャネルに予算を配分し、どのようなキャンペーンを展開するか」という意思決定が中心となるイメージです。

 一方のマーケティングビジョンでは、三年以上先という長期の時間軸で、市場・顧客・社会の構造的変化を見据えた新たな価値創造の方向性を示します。「三年後や五年後に、自社は顧客や社会にどのような価値を提供する存在でありたいか」「顧客とどのような関係を築いていたいか」という本質的な問いに答えるものです。

 焦点の違いも重要です。従来のマーケティング戦略が既存市場・既存顧客における売上最大化に焦点を当てるのに対し、マーケティングビジョンは未来の市場・未来の顧客における価値創造に焦点を当てます。今の顧客が求めているものだけでなく、まだ顕在化していないニーズや、将来顕在化するであろう生活者の課題に対して、自社が提供し得る価値や体験を構想するのです。

 アプローチの違いも明確でしょう。従来のマーケティング戦略では「市場適合(既存の市場ニーズを分析し、それに最適化した施策を展開する)」というアプローチを取ります。これに対しマーケティングビジョンは「市場創造(自社の信念や価値観を明確に提示し、それに共鳴する顧客とともに新たな市場や体験を創り出す)」というアプローチを取ります。

一貫性のある経営判断を支え競争優位を確保する

 なぜ今、このマーケティングビジョンが事業戦略において重要なのでしょうか。第一の理由は、競争優位の源泉が変化していることにあります。かつては製品の機能や価格といった要素で他社と差別化できましたが、現代では技術の進化にともない、機能面での優位性は短期間で模倣されてしまいます。価格競争は消耗戦を招くだけで、真の差別化要因は企業が提供する「意味」や「価値」にシフトしており、これらは短期的な施策の積み上げでは実現できません。

 第二の理由は、市場の不確実性にあります。市場動向は常に揺れ動くものです。「今月は好調」「来月は低調」「競合が新製品を投入すれば市場が混乱する」こうした変動に一喜一憂し、場当たり的に施策を変えていては、一貫性のあるブランドを構築できません。「自社は何のために存在し、どこを目指すのか」という本質的な問いに対する明確な答え、すなわちマーケティングビジョンを持つことで、短期的な変動に振り回されることなく、一貫性のある経営判断が可能となります。

 第三の理由は、組織内の意思のばらつきにあります。事業部門、マーケティング部門、開発部門、営業部門——それぞれが異なる目標で動き、異なる指標で評価されている状態では、顧客に一貫した価値を届けることはできません。明確なマーケティングビジョンがあることで、全社が同じ方向を向いて価値創造に取り組めるようになります。開発部門は「この技術は、我々のマーケティングビジョン実現にどう貢献するか」を考え、営業部門は「この提案は、我々が目指す価値をどう体現しているか」を意識する。こうした組織をまたいだ意思統一が、真の競争優位を生み出します。

次のページ
“過剰な”価値を特定しクイックウィンから始めよ

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
事業成長のためのマーケティング思考連載記事一覧
この記事の著者

鈴木 拓(スズキ タクミ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

  • Facebook
  • X

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング