資本主義の先にあるもの―「問題点と未来」を原理原則から考える
今回ご紹介する書籍は、『21世紀の歴史――未来の人類から見た世界』(ジャック・アタリ (著), 林 昌宏 (翻訳) /作品社)です。
著者のジャック・アタリ(Jacques Attali)氏は、わずか38歳でフランスのミッテラン政権の大統領特別補佐官を務め注目を浴び、1991年、自らが提唱した「ヨーロッパ復興開発銀行」の初代総裁を務めました。1989年のドイツ再統一、1992年のEU成立の“影の立役者”と言われており、政界・経済界で重責を担う一方で、経済学者・思想家としても幅広く活躍し、まさに“ヨーロッパを代表する知性”として、その発言は常に世界の注目を浴びています。
「21世紀の歴史」の軸、“三つの波”とは?
市民の獲得した権利である「市場」と「民主主義」が、なぜ悪者のように扱われるのでしょうか。本書の主張をまとめれば、それは「市場」という国境を越えグローバルに展開されるものと、「民主主義」という国境内にとどまりローカルに運営されるもののバランスが失われている現状があり、さらに悪化することにより、市場民主主義の弊害が看過できないものになるとしています。
本書は、歴史上の大きな方向性や流れを原理原則として、21世紀における市場民主義以降の状態を、「三つの波」という言葉で説明しています。
「第一の波」が本格化する前に、先ほど説明したような“民主主義なき市場”の時代(2025年から2035年)に、現在の「中心都市」のシリコンバレーを含む米国が凋落し、2050年頃に第一の波である「超帝国」が出現するとしています。超帝国では、民主主義を形成する各国家が提供する公共サービスが、超帝国の主体である企業により代替されるようになり、民主主義そのものや政府、国家の枠組みを実質的に破壊していく。
続いて、極度の暴力をともなう戦争・紛争が頻発する「第二の波」の時代(「超・紛争」)へ移行する可能性を提示しています。
そして、「第三の波」として、第一の波、第二の波の失敗から学び、「市場」と「民主主義」のバランスを均衡させるような「超・民主主義」の時代へと移行するべきだとしています。
では、次項以降で、「三つの波」の詳細をみていきましょう。