開発陣と一緒に戦略投資を考える
精密機器メーカー:研究開発の長期化対策
3つ目の例は、ある精密機器メーカーでの取り組みです。多くの企業で、研究開発費用の適正水準について議論されていますが、この企業でも、研究開発からどのようにリターンを引き出せばよいのか、活発に議論されていました。
この企業では、開発部門で事業性(投資に対するリターン)が高い技術・製品が開発されると、事業部が引き取って事業化するルールになっています。つまり、開発部門に戦略投資に関する、初期的な説明責任があるわけです。ところが開発部門では、技術の専門家は大変豊富なものの、事業性を考える人材が不足しており、このことが製品開発の長期化と事業化案件減少の一因になっていると判断されました。
そこで、開発部門の支援スタッフが、開発者と共同で事業化に関する検討を進め、事業性を改善するために必要な助言を行う体制を構築しました 。つまり、社内コンサルタントを配置して、戦略投資の事業性を開発者と議論する仕組みを作ったのです。
この企業での取り組みでは、支援スタッフの方の努力・熱意が印象的でした。ビジネスシミュレーションを導入した当初は、開発を中止に追い込むための手強い敵が現れた、と開発陣に強く警戒されました。これは他の企業でも、よく見られる反応です。オレ達のプロジェクトを潰しに来たぞ、本当のことなんか絶対話すものか、と開発陣と支援スタッフのコミュニケーションが難しい状況になりました。
そこで、その支援スタッフの方は、「私は、皆さんの味方です。事業性を高めて、事業部に説明しましょう。」と声に出して伝えたのです。地道にこの活動を続け、次第に収益モデルやリスクの可視化が事業性の改善に役立つことが開発陣に理解されるようになりました。やがて一年ほどして、ようやく、開発陣から相談が持ちかけられるようになったそうです。
以上、3つの事例をご紹介しました。
一つ目の事例は、「よくわからないから、しっかりと説明してほしい」という経営陣の要求に応える仕組みでした。戦略投資の内容が今一つよくわからないけれども、時間が無いのでそのまま進んでいる、ということがあれば、是非参考にしていただきたい事例です。
二つ目の事例は、各部署の意見をばらばらに報告するのではなく「客観的に、一貫した情報を経営陣と共有する」ということが目的でした。
三つ目の事例は、開発陣と一緒に戦略投資を考える、といった取り組み事例でした。
いずれの事例も、情報の共有を目的としており、戦略投資の意思決定にはコミュニケーションが重要であることを示唆しています。