モンテカルロシミュレーションで利用する
「統計量」の精度が重要
確率分布と乱数を利用する
ここでルーレットを使用する問題点も浮かび上がってきます。たとえば、10円から30円まで販売単価が変動するかもしれませんが、最終的には20円程度になる可能性が高いとしたら、10円から30円まで同じ確率で数値が出るのは不適切です。したがって、ルーレットでは、20円が最もよく出るように設定する必要があります。また、20円50 銭といった円未満も試算したいかもしれません。
このような問題に対しては、販売単価や個数のような変数に「確率分布」を設定することによって対応します。たとえば、20円が最もよく出るように(10円や30円はあまり出ないように)設定すればよいのです。それぞれの変数に適切な確率分布を設定すれば、さまざまな想定を詳細に織り込んだモンテカルロシミュレーションを実行することが可能になります。
確率のように、多数のデータから導き出される数値のことを「統計量」と言います。確率以外に統計量の代表的なものには、「平均値」、「標準偏差」、「最小値」、「最大値」などがあります。また、このような統計量を計算するためのデータを「サンプル」と言います。ルーレットを1万回、回してみて確率を知ろうとすることは、1万個のサンプルを集めている、ということになります。ルーレットを1万回試すような考え方を、ビジネスにも応用しようという考え方がモンテカルロシミュレーションなのです。
モンテカルロシミュレーションの特徴は、確率分布と乱数を使うことにあります。「乱数」とは、次に出る数字が決まっていない数列のことですから、次に出る数字がまったく決まっていないルーレットは、乱数発生装置の一種とも言えます。ソフトウエアを使用するモンテカルロシミュレーションでも、1回目に出た数値によって、2回目に出た数値が影響を受けないように、つまりランダムに数値を発生させることが重要です。
余談ですが、ソフトウエアとしてランダムに数値を発生させるのは、技術的にかなり高度なことで、数々の乱数発生専用プログラムが開発・販売されています。命令した通りに実行するのがソフトウエアの基本なので、「ランダムに」との指示が実はかえって難しいのです。
代表的な4つの確率分布
「正規分布」と「三角分布」は、平均値、最尤値(最も出やすい値)の値が発生する確率が高く、両端に近づくほど数字が出にくい確率分布です。たとえば、先ほどの販売単価ならば、20円が平均値または最尤値にあたり、10円と30円は両端の値ということになります。
「三角分布」は、コストなど増加しやすいが減少しにくい、といった確率的に左右非対称の性質を表現するときに用いられることが多い分布です。「一様分布」は、どの数値も同じ確率で発生する分布なので、企画者が任意に決められる数値の確率分布設定に適しています。「離散分布」は、あらかじめわかっている数値のどれかにしかならない(例:1、3、10 のうちどれかの数値になるなど)場合に用いられます。
実際には、モンテカルロシミュレーションのような定量的な分析を実施しようとしても、確率分布を定義することそのものが難しいことが多くあります。前述の例では、販売価格が正規分布なのか、それとも三角分布なのか、そして10円という価格がどの程度の確率で発生するのか、ということが問題になります。
もし過去のデータが揃っていれば、それを参考に分布を推定することはできます。しかし、過去のデータと同じ確率で今後も新たな製品に関する値が発生するとは限りません。過去のデータが得られても、それがどの程度再現すると考えるのか、事業の新規性によっては、大変難しい問題です。
過去のデータが得られない新規事業などでは、確率分布を設定することはさらに難しくなります。したがって、実務では、どのような考え方でその確率分布を想定したかを明示するか、分布にはこだわらずに(三角分布を基本とする、など)数値の変動幅の検討に注力する、といった取り組みをすることになります。分布よりも変動幅を検討するほうがシンプルであり、具体的な対策行動につながりやすく、現実的対応と言えます。
精度は、インプットした数字に影響される
モンテカルロシミュレーションは、明確な数値で計算結果を示すので、かなり「もっともらしく」見えるものです。しかし、そもそもはインプットした数値をソフトウエアが機械的に処理しているに過ぎません。したがって、「どんな数字をインプットするかに依存」しています。インプットした数値を設定したその考え方を適切に明示しなければ、かえってミスリーディングな分析になりうることに注意が必要です。見かけが「もっともらしい」華麗な分析に惑わされないようにしましょう。
モンテカルロシミュレーションは、不確実性の高い事業を行う製薬会社や総合商社などで意思決定の参考とされています。コンピュータやソフトなくしては実行できないシミュレーションですから、近年発達してきた新しい分析手法であり、今後の発展・応用が期待されます。