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戦略投資とファイナンス

戦略意思決定手法②分析・シミュレーションの活用

第6回

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医薬品開発プロジェクトの投資意思決定

 ハイリスクハイリターンで知られている医薬品開発プロジェクトの投資意思決定では、一般的にデシジョンツリーを活用した期待値計算が用いられています。医薬品開発は、新薬の元になる化合物が発見されてから、新薬として発売されるまでの確率がおよそ1万2,000分の1とも2万分の1とも言われるほど、きわめてハイリスクな事業です。

 投資額が大きくなる臨床段階に進んでからの成功確率も、多くの場合で10分の1以下であり、回収見込みの低い投資を行わないように、事業性の評価が行われます。こうしたリスクに対処するために、実際の医薬品開発ビジネスでは、段階的に投資が行われています。ここでは、次の3段階に分けて説明します。

第1 段階(フェーズ1) 第2 段階(フェーズ2) 第3 段階(フェーズ3)
合計100 億円の投資→ 10 億円 20 億円 70 億円

 上記のような段階的な投資では、第1段階で失敗すると10億円の損、第2段階で失敗すると累計で30億円の損、第3段階で失敗すると累計で100億円の損となります。すべて成功すると650億円の儲けになるとします。

各段階の成功確率図10 各段階の成功確率
出所:不確実性分析実践講座の図表を一部改変

 また、各段階の成功確率が図3のようになるとします。ちなみに、医薬品業界向けには、このような成功確率の参考データが、専門業者から販売されています。図3のツリーを使って、失敗した場合と成功した場合の損と儲けをそれぞれ計算に使うと、期待値が計算できます。

成功確率を用いた医薬品開発プロジェクトの期待値計算図11 成功確率を用いた医薬品開発プロジェクトの期待値計算
出所:不確実性分析実践講座の図表を一部改変

 期待値計算の結果、47億円のプラスとなりました。たとえば、フェーズ1で失敗した場合に、以降の投資を行わないと決めれば、損失額は10億円で確定します。医薬品開発プロジェクトは、失敗のリスクが高いので、大きな損失を避けるためにこのような工夫がなされているわけです。

 総合商社や総合電機メーカーでも、「撤退基準」として同じ考えが実践されています。撤退基準の値が適切であるかどうかは、デシジョンツリーを書いて期待値計算を行うと判断できます。この場合、成功確率の算出が実務的に大きな問題となります。自社の経験や調査等によってデータを入手することが望ましいのですが、新たな戦略投資では、入手できないことのほうが多いでしょう。そのようなときには、一旦仮の確率を置いて期待値を計算し、許容できる投資の限度額と、その場合の成功確率を逆算して妥当性を議論するというのも1つの方法です。

 いかがでしたでしょうか。直感的な理解を可能にする分析やシミュレーションをご紹介しました。このような分析・シミュレーションは、プランニングそのものの質を高め、結果的に説明がわかりやすくなり、意思決定の質を高める効果があります。是非、このような分析・シミュレーションを活用し、戦略投資の成功に役立てていただきたいと思います。

 さて、次回は、事業ポートフォリオにおける戦略意思決定をご紹介します。複数の事業(事業ポートフォリオ)に対して、限られた経営資源の最適配分を実現する、事業ポートフォリオの最適化手法です。選択と集中を定量的に意思決定するにはどうすればよいのか、スタンフォード流らしい解決法です。次回もどうぞお楽しみに!

  1. 籠屋邦夫、「選択と集中の意思決定」東洋経済新報社 2000年
  2. 福澤英弘、小川康、「不確実性分析実践講座」ファーストプレス 2009年

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この記事の著者

小川 康(オガワ ヤスシ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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