なぜ人は選択肢が少ないほうが意思決定しやすいのか?
現代社会では、人々に与えられる選択肢は増える一方だ。1970年代初期の平均的なスーパーマーケットの品揃えは9000品目ほどだったが、現在ではその数は4万を超える。アマゾンが扱う書籍タイトル数は米英だけで2億5000万を数え、ウォルマートは400万超の商品を取り扱っている。出会い系サイトの利用者は100万人を超え、代表的な出会い系サイト「Tinder」の1日のスワイプの回数は10億回といわれ、先進国の労働者が手にする情報量は1日あたり新聞174紙に匹敵すると推定されている。
アイエンガーさんは、こうした選択肢の多さがどんな結果を招くのかに関心を持ち、スタンフォード大学在学中の90年代にある実験を行った。これはその後「ジャム研究」と呼ばれ、有名になったものである。
種類が少ない方が売れる「ジャム研究」
スーパーの店頭にジャムの試食スタンドを設け、あるときは6種類のジャム、別のときには24種類のジャムが試食できるようにし、次の2点を観察した。
- 立ち寄って味見する人が多いのはどちらか
- 実際に購入する人が多いのはどちらか
その結果、24種類の場合、客の60%が立ち寄るのに対し、6種類ではそれが40%だった。しかし、購入行動では結果が逆になり、24種類のときは立ち寄った人の3%が購入、6種類のときは30%の人が購入した。6種類のジャムを試食させたときの購買者数は、24種類のときの6倍に達した。
アイエンガーさんは、「人々は、選択肢の多さには惹かれるが、実際に選択するのは、選択肢が少ないときの方だ」と解説する。この後にも、チョコレート、テレビ番組、出会い系サイト、投資の意思決定、治療選択など、さまざまな分野で選択肢の多さが人々に与える影響についての研究が行われ、次のような3つの結果が導き出されているという。
- 選択肢が多ければ多いほど、人は選択を避けたり、遅らせたりする傾向が高まる。
- 選択肢が多いほど、人は選択を誤りがちである。
- 選択肢が多いほど、人は自分のした選択への満足感が低くなる。
私たちの心は選択肢が多いことを喜ぶが、脳の方はそうでもないようだ。なぜこんなことが起こるのか、脳の働きから考えてみよう。