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「複業」という生き方

企業で働く面白さを感じながらも、独立し、「行政書士」を目指したわけ

第5回:松本沙織さん インタビュー【前編】

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大好きだった、会社での仕事を辞めて「行政書士」を選んだわけ

――現在、行政書士として働きながら、映像制作会社のCFO兼COOもつとめる松本さん。どんなふうに働いていらっしゃるのか、教えてください。

松本沙織さん(以下、敬称略): 2012年に地元の高円寺に行政書士事務所を開業し、遺言・相続、企業の法務関係、外国人の在留資格の手続きなど、さまざまな依頼、ご相談をいただいています。
 一方で、同じ高円寺を拠点とする、映画・映像制作コスモボックス株式会社で、CFO兼COOとして、法務や折衝、営業戦略の立案やプロデュース業務を担当しています。また、行政関係の委員や地域コーディネーター等の役割、学校からの依頼で小中学生に法律の授業を行ったり、今年度から下北沢成徳高等学校で「起業」をテーマにした年間授業を受け持ったりなど、講師としてのお仕事もご依頼をいただいています。

――まったく違う分野のお仕事である、行政書士と映像制作会社――それぞれの仕事を始めたきっかけをお聞きしていきたいと思います。 まず、もともと松本さんは行政書士に興味があったんですか。

松本: いいえ、社会人になった頃は、まったく考えていませんでした。大学卒業後、オリックス株式会社で働いていましたが、そこでの仕事が大好きで、転職を考えたことはありませんでした。産休・育休の際に、一度会社を離れることになったときにも、当然すぐに復職するつもりでいました。定年まで、それを超えてもずっと働きたいと思っていました。

――オリックスでは、財務部で資金調達を担当していたとか。

松本: 国内外オリックスグループが事業を行うための資金を、本社の財務部で調達しているのですが、その中の短期資金を集めるチームに配属になりました。具体的には、短期社債(CP=コマーシャルペーパー)という有価証券を投資家に発行するチームでした。銀行からの借り入れや証券会社経由での社債発行だけでなく、直接、資金の出し手である――例えばメーカーなどの事業会社や、学校法人などに、余剰資金の運用手段として短期社債を購入していただくという形での調達です。
 私の役割は、その投資家からの安定的な継続調達、新たな資金を出していただいたり、信用していただいたりするIR活動などでした。毎日、上場企業、伝統的な地域企業など――本当に様々な業種の会社や学校、団体を何社も訪問し、多くの方々とご縁をいただき、とても充実していました。

――そのお仕事の面白いところは、どういうところでしたか。

松本: オリックスは、商品開発だけを行う部署があるのではなく、営業とお客様との会話、コミュニケーションから汲み取った課題に対して、サービスを組成して提供できることが特徴です。私も資金調達がメインながら、お客様がいま何に困っていて、何を解決したくて、もっと事業を前に進めるためにどんなことをしたいのか、ということにアンテナを張るようにしていました。例えば、自動車のリースが必要なら「オリックス自動車」、保険が必要なら「オリックス生命」、今ないサービスであれば仕組みを作ってみよう、というように、<お客様のニーズに対する具体的提案>ができること、その幅を自分で広げていけることが一番の面白さでした。自分1人だけではなく、ときには社内の様々な部署やグループ会社の方々と一緒に、日本全国たくさんのお客様を訪問してきた経験は大切な財産となっています。

――そこまで大好きなお仕事だったのに、なぜオリックスを退社して、行政書士の道へ?

松本: きっかけのひとつは、育児休業中に保育園の入所待ちの期間が長くなり、復職ができず育児休業を3年間に延長したことです。その間、特に2年目くらいから、それまであまり目を向けることのなかった地域の方々との交流など、大きなくくりで言うと「会社で働くことではない世界」を体験する機会を得ました。かねてから、自分自身がやりたいことは一貫して企業を訪問し何かを提供する=営業の仕事だと思っていた中、自問自答しました。「営業」って噛み砕いて考えるとどういうことかと。そして、私が生涯やりたいことは、人と会い、その方の困っていること(課題)の解決のお手伝いをすること、事業や物事を前に進めたい方に対し、自分が関わることでその一歩をより確実なものにするお手伝い、だと思いました。
 ということは、会社に所属していなくてもできるのかもしれない、と考え、自分が生まれ育ったこの地域で、そのような活動ができないか、仕事にできないかと考えたときに、会社に属さないのであれば資格はどうだろうと様々な国家資格を調べました。そこで見つけたのが<行政書士>でした。仕事の内容を知り、これしかないと思い、絶対になりたいと思い、受験を決めました。

――行政書士という資格ありきではなく、自分のしたい仕事から導き出された結果だったのですね。

松本: オリックスでの仕事と、行政書士の仕事には、2つの共通点がありました。ひとつが、お客さまからいただいたご相談を、専門知識で解決するという点です。行政書士は、できることの守備範囲が本当に幅広い。例えば、事業を起こすにあたり営業許認可を取りたい、定款や議事録や契約書を作成してほしい、外国人を雇う場合の在留資格の手続きを行ってほしいなど、企業がお客様となるお仕事から、相続の手続き、遺言書の作成、マンションの自治会の規約を作りたい、離婚の協議書を作ってほしい、というような個人のお客様の課題解決のお手伝いまで……本当にたくさんの手続きやご相談に携わることができます。
 もうひとつ似ている点は、チームで課題解決にあたることができる点です。たとえばオリックスで、グループ会社や他部署の方と協業していたように、お客様の課題解決のために必要な専門家――税理士、弁護士、司法書士、さらには、不動産業者等々、様々な専門家とチームを組んでお仕事をさせていただいています。
 よく考えるのですが、私は以前から、例えばお店を開きたいとか、何かの作品を作りたいとか、具体的にひとつこれをやりたい、という事業があって起業したわけではない。お客様がやりたいことがあって、それに自分が関わることで、より良くなったり問題が解決したりする――そのプロセスの中でご提案やお手伝いをすることが、何よりやりたいことであり、それは、会社に所属していた時も今でも、全くかわっていません。

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