なぜミツカンは“調理不要”の新ブランドを立ち上げたのか
「ミツカンは、家庭での調理を通じて健康実現を目指している会社として成長してきました」。同社の日本・アジア事業コミュニケーション本部長として顧客接点を統括する林氏はそう切り出した。ミッションは「やがて、いのちに変わるもの。」。主力の酢をはじめ、ポン酢や鍋つゆ、納豆など、多くの商品が高い市場シェアを誇る。
しかし近年は、“調理人口の減少”に直面し、前提が崩れかかっている。特にコロナ禍以降、フードデリバリーや冷凍食品など“調理しない”選択肢が多様化し、一人で食事を取る機会も増加した。同社の調査では、同居家族がいる人も約3回に1回は一人で食事を取っていることが明らかになっており、林氏はこの変化を「“わたしモード”の強化」と表現する。
この課題に対し、ミツカンが打ち出した施策の一つが新ブランド「Fibee(ファイビー)」だ。調理不要な“即食”をコンセプトに掲げつつ、発酵性食物繊維による腸活・美容効果を訴求している。さらに、この「Fibee」を中心に、顧客との“つながり”を強める取り組みに注力しているのだという。
「一期一会」から「持続的な関係」へ。ミツカンが進める顧客接点の再構築
顧客との“つながり”を、林氏は「一期一会ではなく持続的な関係を築くこと」と定義する。ミツカンでは長らく、タッチポイントのトラフィックこそ多かったものの、その大半が“一期一会”にとどまっていた。Webサイトでは他の総合レシピプラットフォームへ遷移するケースが後を絶たず、SNSや体験型博物館「ミツカンミュージアム」でも情報を一方的に発信するのみで、訪問後の接点は維持できていなかったという。
そこで同社は、“つながり”を強化すべく、2つの軸で変革を進めた。1つ目はファンクショナルな軸、すなわち物理的につながる仕組み作りだ。WebサイトでのID登録やD2C、定期購入などの整備を通じ、継続的な接点を設計した。もう1つはエモーショナルな軸だ。各タッチポイントでエンタメ性の高いコンテンツを提供し、コミュニティ化を図ることで、感情的なつながりの構築と共感の醸成を目指した。「“通り過ぎる”のではなく、“留まってもらえる”ような場所作りを志向した」と、林氏は語る。
では、なぜ顧客との“つながり”を強化すべきなのか。Asobicaの髙木氏からこう問われると、林氏は3つの理由を挙げた。
1つ目は既存顧客の理解だ。持続的なタッチポイントを分析することで、自社商品を購入し続ける顧客層がどのような経路で流入し、どの商品に関心を持つのかを深く把握できる。
2つ目として、顧客の多様性を取り込む狙いもある。新商品の購入者は、既存顧客とは異なるセグメントであることも多く、その新規層との関係を維持することで、顧客の“積層”につながる。「これは、失敗するたびに新規領域で新たに顧客を集め直す“スクラップ&ビルド型”の顧客開拓とは一線を画している」と林氏は説明する。
そして、ユーザー生成コンテンツ(UGC)創出が、3つ目の理由だ。顧客との継続的な関係の中で生まれるリアルな声や体験の共有が、商品の信頼性を高め、売上を後押しするという。

