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企業の社会保障業務をHRテックで変革する、KUFU宮田さん

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企業向けのクラウドやWebサービスなどで、生産性や効率をどんどん高めようという機運が盛り上がってきている。そんな中で、遅れているのが会社の間接部門の業務。社員の社会保険という手続き的な仕事は、人事・総務部門の中でも今だに人出と時間のかかるもの。この分野にクラウドのサービスを提供するのが、HRベンチャー企業のKUFU(クフ)だ。社長の宮田さんは、テクノロジーで社会保険の業務を一気に変革しようとしている。

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中小企業には負担の思い「社員の保険」という手続き

株式会社クフ 代表取締役 宮田昇始


FinTech(金融)とかMediTech(医療)、EduTech(教育)などの「◯◯テック」といわれる新サービスがブームです。KUFUもHRテック(人材)系ベンチャーと言われますが、HRでは人材採用や人材管理などが多いと思います。そもそもなぜ「社員の社会保障手続き」の業務に目をつけられたのですか?

宮田:
 社会保険とか、雇用保険とか、いわゆる社会保障制度に関連するサービスをおこなっています。この制度自体は、いい制度だと思っているのですが、一方でその手続きの煩雑さ、アナログさ、みたいなのが結構ひどくて、そのあたりを簡単便利にするようなクラウド型のソフトウェアを作ろうと思ったのがきっかけです。
 以前、妻が産休をとっていた時妊娠9ヵ月の時に自分で産休手続きをやっていたのですが、かなり大変でした。

ハローワークや年金事務所に書類を受け取りに行き、書き方を聞いても、ハローワークの人は教えてくれずに会社でやってもらってください、と言われる。会社でしかわからない事業所番号などの項目がいっぱいあって、ストレスがたまる。当然妻は、こんな会社辞めてやる、みたいな感じになってしまってすごく良くないなと。

じゃ、なぜ会社側が自分たちでやらないかというと、この手続きがすごく面倒にできているからです。基本的に紙でやらないといけなくて、大量の書類が必要です。それぞれの用紙の難易度が高くて、専門の書籍がいるレベルです。おまけに提出先も年金事務所、ハローワーク、労働基準署など複数の役所にまたがる。何カ所にも足を運んで、書類を集めて、窓口に行けばそこでまた2時間ぐらい待たされる。こういう業務は中小企業の社内ではとても手が回らない。そこで従業員にしわ寄せがくる。

今だに“炭鉱の時代”の社会保険手続き

– 会社員にとっては、普段は意識しない社会保険ですが会社側は大変なのですね。

宮田: 
たとえば従業員が社会保険に加入するときの選択肢に、性別と別に「坑内員」という選択肢があります。昔は炭鉱で働く人がすごく多くて、ケガとか事故が多いので、保険料の利率が一般の人と違うようになっていたんですね。
今では炭鉱で働く人って、ほとんどいないでしょう。それがいまだにこんな選択肢として残っています。こういう書類が大量にあります。扶養家族がいる場合だと、最大で10枚ぐらい書かなきゃいけない。それを自分でやったことない人が調べようとすると、すごく大変です。この大変な手続きをクラウド型のソフトウェアで簡単にしようと作ったのがSmartHRです。

混みいった社員の社会保険の入力を自動化
Webでの入力から書類を自動作成

SmartHRでは基本情報に加え、基礎年金番号などヘルプでわかりやすくし、to doリストを順番にこなしていくと入力が完了する。従業員データベースと紐付くようになっていて、紙で書いて出した書類を、エクセルに転記するなどは必要なくてここだけで完結するようになっている。

社労士の仕事とどう切り分けるか

宮田:
 SmartHRは総務省が運営する電子政府e-Govとダイレクトにつなぐために、APIを公開しまています。国もこの分野の電子化を後押ししています。
今までたとえば社労士さんに、入社手続きや社会保険、雇用保険の加入をお願いすると、間にどうしても郵送が2回ぐらい挟まってしまう関係で、保険証が手元に届くまで3週間ぐらいかかると言われていました。SmartHRを使っていただくと、その3分の1の、大体1週間ぐらいで手元に保険証が届きます。ちなみに電子申請が始まってから、これがさらに早くなっていまして、うちの従業員が今月入社したときに、電子申請で申請したんですが、4営業日で保険証が届きました。すごく早くなっています。
月額の料金も、社労士さんに比べるとすごく安くなっています。社労士さんの場合、今は廃止されていますが相場表というのがあって、従業員数4名未満でも2万円からでした。それが小さい会社さんだと、うちの一番安いプランで980円から使えます。

– それでは社労士の仕事を奪ってしまうのでしょうか?

宮田:
 これまでコストの面で社労士に頼めなかった会社に使ってもらっているのは事実ですが、それだけではなくて、社労士さんがすでにいらっしゃるような会社さんに併用という形で使ってもらっています。社労士さんと企業がより円滑に仕事を進められるようになっています。僕たちも、社労士さんと協力しながら事業を大きくしていきたいと考えているんです。将来的には、顧問先の内情を解析できるような、社労士向けの管理画面を用意したいと思っています。それにより、社労士さん達がコンサルティング等のより付加価値の高い業務に専念できるようにしていきたいと思っています。

– 現状、ビジネス的にはどんな状況ですか?

宮田:
 2015年の11月に公開して現時点(2016年4月)で、導入企業が900社を越えています。毎月100社強のペースでユーザー企業が増えている状態です。インターネット系、ウェブ系の会社さんが、7、8割を占めています。当初予測していた、10名未満ぐらいの、社労士さんを使えないような会社さんが、多くなるかなと思っていたんですが、ふたを開けてみると、意外と大きな企業の会社さんに使っていただいています。最近、すごく引き合いが増えているのが、100名前後の会社さんです。有名なところでいうと、ウォンテッドリーさん、クラウドワークスさん、メルカリさん、家事代行のベアーズさんなどで使っていただいています。今、引き合いとしては1000名を越える規模の会社さんからも、数社お声がかかっていて、大きなところにも今後展開できそうだな、というのがわかってきています。人事や労務担当の方にとっては、オンラインでちゃんと管理できるようになり抜け漏れがなくなり負担が減ったという声や、社労士さんとの連絡もすごく円滑になったという評価をいただきます。

自分の大病から感じた「社会保障制度」の大切さ

– 宮田さんご自身、保険にはずっと関心がおありだったのですか?

宮田:
 実は私自身が原体験がありまして、2012年、4年前に私がハント症候群という大きな病気をして車椅子生活になってしまいました。お医者さんに8割治りませんといわれてお先真っ暗な感じだったところから、リハビリを頑張ったおかげで治ったんですね。
 そのリハビリ期間中の生活費を傷病手当金という社会保障制度のひとつでまかなわれたというのがあって、個人的には社会保険に対してすごくいいイメージがありました。
 そのことは忘れてふつうに生活していたんですが、その後、先ほど述べた自分の妻の産休手続きの経験などもあって、SmartHRを考えたんです。

-起業する前はどういう会社だったんですか。

宮田:
 医療系のウェブサービスを作る会社におりまして、私はずっとウェブディレクターみたいな職業をやっていて、その会社にそういう職種で在籍していました。その会社は、その病気をしたその年に辞めてしまうんですが、辞めた理由で大きかったのは、病気をして、いつ死ぬかわからないということで、いつかは自分でインターネットのサービスを立ち上げたいと思っていました。
25歳のときぐらいから、インターネット業界の交流するイベントで知り合った仲間と一緒に立ち上げたのですが、最初の2年間ぐらいはまったくうまくいかなかったんですね。なんでうまくいかなかったかというと、受託をやりながら開発サービスみたいなことをやっていたんですが、それはとうまくいかないんです。
今は受託はやめて、VCなどからの出資も受けて、本腰を入れて取り組んでいます。僕たちのサービス自体、アイデアのシンプルさと事業領域の明快さが切り札だと思っています。

KUFUはDGインキュベーション/Open Network Labが運営する起業家育成プログラムに応募して最優秀賞を受賞。これがSmartHRの事業に本格的に特化するきっかけになったという。2016年にはインキュベータからの調達も完了し、これからが事業の本格的なフェーズに入ると見られている。自分自身の大病を克服、奥さんの産休時の経験などをくぐって感じた切実な思いから、社会保障という分野を変えていこうという宮田さん。KUFUの今後の展開に注目していきたい。

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BizZine編集部(ビズジンヘンシュウブ)

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