成熟企業に適しているのは、プロセスの決まった「プロセスリーダー型」?
企業のイノベーションのスタイルは以下の4種類に大別できる。
- アイデア競争型(例:グーグル-社員が自由にいろいろなアイデアを出して競い合う)
- ビジョナリーリーダー型(例:アップル-リーダーの独創的なビジョンを社員が共有し、発展させていく)
- 協働型(例:オープンイノベーション-人々がソーシャルにつながってアイデアを出し合う)
- プロセスリーダー型(例:P&G-経営陣のしっかりした統率のもとで一貫性あるイノベーションプロセスが展開される)
成熟企業がもっとも再現しやすいのは4の「プロセスリーダー型」で、実際、イノサイト社のクライアントの多くが、この方法を採用する。
このタイプにはまず、強力な経営リーダーシップが必要である。彼らは、イノベーション活動の目標を設け、それに対して定期的に進捗していることを業績として評価する。このタイプのイノベーション事例を見てみよう。
P&Gの事例
イノサイト社は、過敏性腸症候群(IBS、全米で約3000万人が患っているとされる原因不明の腸の不具合)の症状を緩和する健康補助食品の開発にあたって、P&Gを支援した。
P&Gは、IBSの症状を緩和すると思われる微生物を抽出した大学の研究に資金を提供し、実験を継続してもらった。有効性は確実そうだったが、製品化にあたっては効果の安定化や形状の問題などがあった。
科学者たちは、1年目は有効性の証明、2年目は効果の安定化と錠剤化というように、課せられた目標を段階的にクリアしていった。その間、P&Gは毎年市場調査をして、他の企業がIBSの症状緩和製品を市場化していないことなどを確認していた。
技術的課題の解決後は、市場可能性を探らなければならない。世界に前例のない商品なので市場予測は困難だった。イノサイト社は、P&Gチームに、小規模なテスト販売をテンポよく繰り返し、市場を開拓していくことを薦めた。P&Gが米国内の3都市で小規模なオンライン販売を始めると、患者らの口コミで支持が急速に広まり、6ヶ月以内に全米50州で販売されるようになった。
このようにP&Gは、開発のマイルストーンを明確に設け、そこへ到達するたびに、次へ進むための予算をつけ、アイデアを製品へと育てていった。実際には、途中のマイルストーンで問題が発生し、継続の可否が問われ、放棄されてしまうアイデアも多い。そこまでの投資は無駄になってしまうが、それはプロセスの厳しさである。アイデアの中には、進展が非常に遅いものや結果がまったく出ないものもあるので、イノベーションチームは辛抱強くなければならない。
P&Gには上記のようなプロセスがあって、いろいろなことを試す環境が整っていたが、プロセスは企業によって異なる。重要なのは、自社で機能するプロセスを確立し、一貫性を維持することだ。誰かが試みてうまくいかなかったプロセスを別の人が試してみたらポジティブな結果が出た、というような事態は避けなければならない。プロセスの一貫性を保ち、プロセスがどのように機能しているかを衆知させることが、社員の積極的なイノベーション参加を促すカギとなる。