領収書の電子化が遅々として進まなかった理由
– 今回のe文書法の改正でようやくスマートフォンの規制緩和がおこなわれます。これで、領収書の電子化が一気に進みそうです。今までは、3万円未満の領収書でなければダメとか、電子化といっても原稿台付スキャナーによる電子化が前提とか、いろいろと制約がありました。そういう意味では大進歩だと思うのですが、そもそもなぜこの問題に時間がかかったのでしょうか?
船越 電子帳簿保存法での領収書の電子化というのは、10年少し前から認められてはいたのですが、あまりにも規制や制約が多くて、申請する企業というのは圧倒的に少なかったのです。
去年(2015年)に施行された規制緩和では、それまでの3万円未満という制約が撤廃されたのですが、領収書の電子化に対しては、領収書の画像化に関して、まだまだレガシーな部分が残っていた。要は、スキャナーでなければ駄目だったのです。われわれも2014年秋に、JIIMA日本文書情報マネジメント協会に加入して、スマートフォンなど、スキャナーじゃないデバイスも認めてもらえるように、経済産業省などと交渉してきました。スマートフォンで撮影した画像を、財務省や国税庁により正式な証憑と認めてもらうために、どのようなリスクがあり、どのようなの解決が必要なのかを話し合ってきたのです。
領収書の糊づけと保管は膨大なコスト
– コンカーさんとしては、どのような説得をされてきたのですか?
船越 省庁の方に、経費精算のIT化についての現状をお伝えするために、野村證券様の事例を持ち出させていただきました。野村證券様では、全社でコンカーの経費精算のクラウドサービスをお使いいただいています。これまで、年間10数万枚以上の領収書が発生し、全国の支店、店舗から、領収書を本社へ全部送ってもらって、それを段ボールに入れて保管していました。今後、領収書の画像による承認や、画像化後の紙の領収書の廃棄をおこなうことで、送付コスト、保管コスト、それらにかかわる人件費が削減でき、膨大なコスト削減につながると伺っています。こうした企業の現場のリアルな声をお伝えして、省庁様から理解いただいたのだと思います。
– スマホによる領収書の電子化の何が問題だったのでしょうか?
船越 それまで紙の領収書の電子化というと、企業の経理担当がまとめてスキャンをして、電子化して保存する、というイメージだったのです。
それに対して、スマートフォンで電子化するということは、経理担当ではなく領収書をもらった本人が、スマートフォンでもらったその場で撮影する、ということが想像されます。さらに、これまでは、会社内においてスキャンをすることが前提の制度だったものが、会社外で電子化しても良いということになる。 そこで出てくるリスクとして、例として真っ先に上がったのが、領収書の使い回し。例えば、私がもらったタクシーの領収書を同僚に渡して撮影させ、二人が同じ領収書の画像で経費を精算する、ということがあってはならない、ということです。
そのようなリスクについて、一つ一つ、挙げてはつぶしていく作業を3ヵ月ぐらいかけて、JIIMA経由で草案をつくり、経済産業省にまとめていただき、財務省に提出いただいたのです。
それえも改ざん防止のためのスタンプは必要?
– これだけ普及しているのに、スマートフォンを使うというイメージがそれまでは無かったというのが意外です。スマートフォンの撮影のリスクって他にどのようなものが想定されていたのですか?
船越 固定スキャナーと違い、スマートフォンだと、撮影対象の領収書が、画像の中でずれやすいとか、写真が不鮮明だったらどうするのかという問題。そこはきちんとガイドラインを作りましょうと。そのほかには、本人が撮影しますので、その本人による、画像加工ソフトでの改ざんの問題です。
– どちらかというとスマホ写真よりも、スキャナーの画像の方が、加工しやすいような気がするのですが。
船越 スキャナーの場合は、経理の担当の人間がまとめてスキャンするという前提で考えられているので、経理担当の人にとっては、彼らが領収書を改ざんするメリットがない。本人だったらいくらでも魔がさすことがあるだろう、というようなことですね。
– 今回、一定の進歩はあったものの「認定事業者のタイムスタンプが必要」とあります。
船越 スキャンや撮影された後の画像に、タイムスタンプをつけるということになります。目的はやはり改ざん防止ですね。コンカーの製品においても、クラウドにアップロードされた画像にタイムスタンプをつける機能の開発について、米国の本社と進めております。実は、画像に対してタイムスタンプを付与する機能の開発要望を出しているのは、世界中で日本からだけでした。ほかの国、特にアメリカでは、タイムスタンプの付与は必要ありません。
その理由は、アメリカの場合、不正が行われた場合の立証責任というのは企業側にありますが、日本は国税庁がその責務を負わなくてはならないということです。そのため物的証拠として一番必要になる領収書原本について、非改ざん性を証明するために、タイムスタンプをつけた領収書の画像の保存が義務づけられるということです
– 効率化したとは言え、タイムスタンプというルールは運用が難しいのではないでしょうか?
船越 一番ポイントなのは、領収書をもらってから、タイムスタンプをつけ終わるまでの期間が、方式によって定められてされていることです。今回の規制緩和で認められた、「領収書を受領した本人が電子化を行う場合」には、領収書の受領後3日間以内に電子化を行わなければならないのです。その理由は3日間であれば、画像ファイルを加工して、改ざんする時間的猶予がなくなるだろうと思われているからですね。
– そこも腹落ちしないというか。やる人はやるだろうと(笑) 最後に電子化された後の領収書は、第三者の証憑承認のチェックの後で破棄することになるそうですが、この第三者は誰になるのでしょうか?
船越 経済産業省からの文章に書かれていますが、領収書をもらった本人でもなく、その本人の経費精算を承認する上長でもない第三者になります。例えば、全然違う会社の人でもいいのか、というとそうではありませんので、当然社内の適切な人を、各企業がアサインすることになる。
そこからは、各会社ごとに定めるルール次第になります。例えば、営業担当者が使った領収書であれば、営業部の庶務担当のような人が、ランダムに選んだ紙の領収書を、撮影してタイムスタンプされた画像と比べて、同一の領収書だと確認できれば、紙の領収書は破棄することになります。
“ちょろまかし”よりもラクな方が良い
– 先日発表されたように、日本の場合、交通費や出張旅費などの生産業務に費やす時間が多い。領収書以外でも、まだまだ削減できる部分は多い。またシステム化が未熟なために、「不正をチェックする仕事」を人力でやっていたりする。このあたりが日本企業の生産性と収益性の低さにもつながりますね。
船越 たとえば、我々の経費精算の製品では、パスモやスイカなどのICカードをICカードリーダーにて読み込むことで、運賃を含む電車等の乗降履歴を取り込むことが出来ます。本人にとっても、交通費の「ちょろまかし」などよりは便利な方が良いですし、そうなれば経理の負担も減り不正の防止になる。
もうひとつは、法人カードの利用です。これまで日本においてはなじみが薄かった法人カードを、従業員に配布して利用させている企業も増えてきています。
本人がわざわざポケットマネーから立て替えて精算するよりも、会社が管理する法人 カードにて決済させることで、経費が透明化されます。細かいことですが、ポイントも従業員個人の利得にはならない。
– 今後の領収書のスマホ画像解禁を皮切りに、人事、経理や経営企画部門の方が、現場のリアルが要望を受けて、古い仕組みを変えていっていただければ良いですね。
船越 経理部門の負担という観点でいうと、2年前に調べたときには、単純な経費違反チェックが、経理部門の負担になっているか、という回答に関しては、40%の人は負担になってるという回答でした。不正防止と従業員本人の利便性の向上、というところは、すごく両立していくと思います。それによって経費精算が劇的に辛い仕事じゃなくなるし、時間もかからなくなる。一方で、ガバナンスも効くようになる。
7月7日には国税庁から、今回の規制緩和に関しての詳細な内容およびQ&Aが公開されました。それらの内容は、9月30日に施行され、スマホ利用を申請した企業が、領収書をスマートフォンで撮影が可能になるのは、最も早いケースでは来年(2017年)の1月1日からにります。コンカーとしても、今後積極的にモバイルアプリなどでのe-文書法対応を進めていく予定です。
– ありがとうございました。