エンジニア畑の日本人×マーケティング畑のアメリカ人
テクノロジーとマーケティングという2つの側面の役割分担は500 Startups Japanを率いる2人についても言える。というのは、澤山氏はテクノロジーのバックグラウンドを持っており、ライニー氏はマーケティング分野での専門性を持っているからだ。澤山氏は大学院でコンピューターシミュレーションを学び、2014年、2015年と2年連続で TechCrunch Tokyo Hackathonの入賞経験を持つという筋金入りだ。メディアで「エンジニアVC誕生」と紹介されたのもうなずける。
日本人の澤山氏とシリコンバレー事情に精通したアメリカ人のライニー氏は、国籍の面でもお互いをまさに補完しあう関係。2人とも流ちょうな英語・日本語を話すバイリンガルだが、細かいニュアンスはネイティブだからこそ分かることもある。「世界と日本を結ぶという意味でもベストパーナー。チームが大事というのは我々自身が最も体感している」と澤山氏は実感を込めて話す。
こうして、シード、コンセプト、チームの3つの条件がそろえば「分野」にはこだわらないという。「本当に新しいものはどこから生まれてくるか分からない。良い企業へ先手を打って投資したい」。ライドシェアのウーバー(Uber)や民泊仲介のエアビーアンドビー(Airbnb)を例に挙げながらライニー氏は説明する。
実績もついてきている。500 Startupsが数々のシードへ投資した中で、10億~100億円の規模で、同社が「ポニー」と呼ぶに足る企業は300社以上ある。また、100億~1000億円の規模の「ケンタウロス」と呼ぶ企業も37社になった。さらに、1000億円以上に成長したいわゆる「ユニコーン」も3社ある。
ライニー氏は「日本でもグローバルなユニコーンの誕生に貢献していきたい」と意気込む。では、どのような戦略を描いているのだろうか。
日本のトレンドは「出る杭を引き上げる」?
500 Startupsがファンド展開する地域は北米のほか、南米、カナダ、東南アジア、韓国など11地域。最も勢いのある地域は東南アジアだという。日本について、「英語情報が少ないこともあり、外から見るとブラックボックス。そのため機関投資家を中心に投資の世界ではJapan passingの風潮がある」と澤山氏はいう。では、なぜそのJapan向けのファンド設立に至ったのか。
その大きな理由の1つとして2人は、日本市場の潜在能力に対し、ベンチャー投資があまりにも小さいことを挙げる。2014年の日本の名目GDPは約490兆円で世界第3位、1位のアメリカ(約17.3兆ドル。日本円で約1900兆円)の約4分の1だ。「アジアのような高い成長率はないといっても、国民全体のITリテラシーが高く、さまざまな消費がされている肥沃な市場」とライニー氏は評価している。
それに対し、日本のベンチャー投資額は約1154億円(2014年・ジャパンベンチャーリサーチ発表)にすぎず、「アメリカではVCから約480億ドル、エンジェル投資家から約240億ドルで合計約720億ドル(約7兆9200億円)規模」(澤山氏)と比べると、約70分の1とその差はあまりに大きい。
金額面だけではない。「素晴らしいエンジニアリングやものづくりといった、日本の強みが埋もれている現状がある。これはあまりにもったいない」と澤山氏。この日本の眠れる潜在能力を引き出したい考えだ。ライニー氏は「日本でのベンチャー投資額を10年以内に1兆円規模にしたい」と意気込む。
ではなぜ今なのか? それは、現在ベンチャー企業を取り巻く環境が改善してきたことが大きいという。「ここ5年くらいで、ベンチャーというものがクールで大きな可能性を秘めた存在として認識されるようになった」(澤山氏)。
エリート大学出身の人材も大企業一辺倒でなくベンチャー志向が高まってきたと同時に、大企業もオープンイノベーションを掲げてベンチャーへの興味が高まっていると話すライニー氏は、「日本では『出る杭は打たれる』という言い方があるが、今は『出る杭を引き上げる』くらいの状況ではないか」とその印象を説明する(ちなみに、このようにことわざを自然に引用するくらい、ライニー氏は日本語がペラペラだ)。