デザイン界の新種・希少種「ビジネスデザイナー」
この連載を始めてから、「ビジネス出身の人間として、デザインファームでどのように働いているのか、その実態を聞きたい」という問合せを、経営コンサルティングファームに勤める何名かの方から頂いた。まだまだ数は少ないだろうが、ビジネスからクリエイティブへの転身は徐々に注目されているように感じる。
この記事は、さまざまな人に行った断片的な回答を、総集編的にまとめたものにもなっている。
海外のビジネス誌で「これからの10年、消えるデザイナー、生まれるデザイナー」というテーマの特集をちらほら見かけるようになった。流行りのVRやAI、新しいマテリアルを扱うデザイナーなどは、今後存在感を増していくのだそうだ。「ビジネスデザイナー」(Design Strategistと呼んだりもする)も、こうしたデザイナー職と並んで“成長株”に挙げられている。
世界の大半のビジネスデザイナーは、デザインファームに生息している。しかし、その中でも比較的新しく、まだまだマイノリティの職種だ。日本では、monogotoの濱口秀司さんがビジネスデザイナーとして抜群の知名度を持っている。私も今年からビジネスデザイナーという肩書きで仕事をしているが、まだまだ日本では数は少ない。何者?何ができるか?なぜそんな役割が必要なのか、など謎が多い存在だろう。
財務諸表が読めるデザイナー
ビジネスデザイナーは、具体的に、どのような仕事をしているのだろうか?
シカゴのデザインファームに務める、知人のビジネスデザイナーは、「右手に色鉛筆、左手に電卓」を持って仕事をしていると言う。「デザイナー」と名乗るからには、もちろん審美眼も持ち、デザイナー的なスキルも持つ。それに加え、定量データも睨みつつ、市場分析もする。一言で言うと、「財務諸表が読めるデザイナー」である。
例えば、上記は音楽マーケットのリサーチの一例である。
音楽ストリーミング市場の成長。SpotifyやPandoraなどの音楽サービスにおける収益構造の分析。流通経路ごとのミュージシャンの収入額……。通常、デザインファームが行わないような定量リサーチをコンサルティングファームが行うような水準で行うのがビジネスデザイナーの役割だ。こうしたプロセスにおいては、文字通り財務諸表とにらめっこする。
もちろん、このようなプロセスの間にも、他のチームメートと一緒に、プロダクトやアプリ、サービスなどのデザインにも携わる。ビジネスとデザインの両利きで、コンセプトに収益性、持続性という要素を付加・強化していくのが重要な役割だ。