イノベーションのための「場づくり」と「目的」の重要性
――日本企業に同じ課題を感じている両社で、デンマーク視察を行ったとのことですが、そこで得られた知見を教えてください。
原:
両社でデンマークの大学や企業、公共施設などをまわりました。印象的だったのは、「私たちは、どういう未来をつくりたいのか」を、性別、年齢、人種をこえて話し合う場や機会が、デンマークには日常的に存在することです。市民がそれらの活動に参加する中で、個人の主体性が育まれているように感じました。
山田(博報堂ブランドデザイン コピーライター):
日本でも「産官学民連携」はよく言われますが、デンマークでは「産官学民がらせん型に関わりあって」連携していくことが重要であると言うそうです。“4つのらせん”という意味で「クワトロ・ヘリックス」と呼ばれています。ひとつの向かうべき方向性を共有した4つのセクターが、らせん状にからまりあいながら進んでいくというイメージでしょうか。
たとえば、私たちが視察の中で訪れた「オーフス図書館」はクワトロ・ヘリックスの事例として、とてもわかりやすいものです。「図書館を使うのは市民なので、市民が主役であるべき」という考えのもと、市民がワークショップやアイデア・コンテストを通じてコンセプトづくりの段階から参加して、建築設計が行われました。子どもたちに「理想の図書館」の模型をつくってもらい、そのエッセンスを建築家への仕様書に盛り込む、などということもしたのだとか。
そうして、「情報と出会う場から、人と出会う場へ」「Space for Media から Space as Media へ」といったコンセプトが生まれ、自動の貸出機や配架機、ロボット駐車場などの最新機械が導入されたことに加えて、ディスカッション・スペース、メイカーズ・スペース、キッズ・スペースなど人が出会い交流する空間とそこにコンテンツを提供する協力団体とのネットワークを備えた、新しい図書館ができあがりました。
結果として、30万人の人口規模の市ながら、オープン4カ月で50万人の来館者が訪れる人気の施設となったといいます。コンセプトづくりや設計の段階から市民が参加することで、自分が行政の取り組みにも「主体的に関わっている」とう意識が生まれるんです。
大本:
産官学民が混ざって何か新しいことに取り組むのは、「イノベーションはカオスから生まれる」という考え方があるからです。多様な人々が集い、それぞれの視点が組み合わさるからこそ、面白いものが生まれるんです。
原:
クワトロ・ヘリックス的なイノベーションでは、市民が主体的に関われるような「場づくり」も大切ですが、同じくらい重視されるのは「目的」の持ち方ですね。イノベーションはあくまで手段であって、誰のために、何のためにやるのかという目的意識を持つことが大切です。イノベーションに重要なのは「目的」と「場づくり」の2つなんです。