担当者の本音が続々、成功の裏にあるリアルな挑戦
セッションの前半では、登壇する5自治体がそれぞれの取り組みを紹介した。
伝統産業の地に生まれるイノベーション拠点:堺市
大阪市の南に位置する政令指定都市である堺市は、中小企業が支える伝統産業が盛んな都市である。同市は大阪中心部からのアクセスも良い中百舌鳥(なかもず)エリアを「中百舌鳥イノベーション創出拠点」と位置づけ、スタートアップ支援を強化している。
その核となるのが、インキュベーション施設「S-Cube(さかい新事業創造センター)」である。同施設にはコワーキングスペースや入居スペースが設けられ、近隣の大阪公立大学とも連携しながら、新たなビジネスが生まれる土壌を育んでいる。
具体的な協業事例として、同市 東京事務所の羽田貴史氏は、日野コンピュータシステムと連携した認知症の早期発見ソリューション開発や、IBMなどと連携した学校での探究学習への出前授業といった、地域の社会課題解決に直結する取り組みを挙げた。

「一周先」を行く施策と力強いエコシステム:神戸市
神戸市は2016年からスタートアップ施策を開始しており、この分野の先進都市の一つである。同市 東京事務所長の武田卓氏は、市の役割を地元の企業や大学、支援者を巻き込む「橋渡し役」であると説明した。
その施策は常に「一周先を行く」ことを特徴としており、全国に先駆けて行政課題をスタートアップと解決する公民連携制度「Urban Innovation KOBE」を実施。全国的なモデルケースとなっている。
また、スタートアップの海外展開を支援する「SDGs CHALLENGE」、11億円規模のファンド「ひょうご神戸スタートアップファンド」を組成するなど、スタートアップが成長するための環境の整備にも力を入れている点が大きな特徴である。
リニア新駅を核に展開する4つのイノベーション事業:相模原市
東京都心から約40分という好立地にあり、製造業の研究開発拠点が集積する相模原市。近年はリニア中央新幹線の新駅設置が予定される橋本駅周辺を核としたイノベーション戦略を加速させている。同市 環境経済局の多良幸人氏によると、現在、主に以下の4つの事業を展開している。
- 「相模原アクセラレーションプログラム」:JAXA相模原キャンパスなどの地域資源をフィールドとして提供し、スタートアップの実証実験を支援する。
- オープンイノベーションプログラム「Sagamihara Innovation Gate」:市内のものづくり企業とスタートアップをマッチングさせ、新規事業創出を促進する。
- イノベーション創出拠点「FUN+TECH LABO」:橋本駅前にJR東海が開設した拠点を活用し、市民を巻き込みながらイノベーションの機運を醸成する。
- 広域スタートアップ支援ネットワーク形成事業:神奈川県と連携し、県央・多摩地域を巻き込んだ広域的な支援ネットワークの構築を目指す。

研究開発都市の強みを活かす多様な支援拠点:川崎市
産業都市として知られる川崎市は、近年、製造業から研究開発中心の都市へと変貌を遂げ、市内には550以上の研究開発機関が存在する。この強みを活かし、市はディープテック分野を中心に多様な支援拠点を整備している。川崎市 経済労働局 イノベーション推進部 担当課長の藤本順也氏は、その一例として以下の4拠点を紹介した。
- Kawasaki-NEDO Innovation Center(K-NIC):NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と共同運営する市のスタートアップ支援の中核拠点。
- キングスカイフロント:羽田空港の対岸に位置し、ライフサイエンス系の研究開発支援に特化したオープンイノベーション拠点。
- 臨海部の研究開発拠点:JFEスチール高炉跡地の広大な敷地(約400ヘクタール)に、2027年頃には10万平方メートル規模の新たなラボがオープン予定。
- 新川崎・創造のもり:アジアで初めて量子コンピュータが設置されたインキュベーション施設を中心に、量子技術関連のスタートアップ支援を展開。2029年には滞在機能を備えた新たなラボが完成予定。
20年以上の実績を持つ「一気通貫」の支援体制:宇都宮市
宇都宮市は20年以上前からスタートアップ支援に取り組んでおり、これまでに250社以上を支援してきた実績を持つ。同市 共創推進室の鈴木貴久氏は、市の支援体制を「一気通貫」であると説明した。
東京から約1時間というアクセスの良さを活かし、企業のセカンド拠点としての活用を推進。実証実験を支援する「ミヤ・共創ラボ」では、最大100万円の支援金に加え、市が持つネットワークを駆使したフィールド提供を行っている。さらに、市内への移転に対する手厚い補助金も用意するなど、事業化から拠点設立まで切れ目のない支援を提供している。
