ジョブ理論とリーンスタートアップ
どんなに斬新なものであっても、「ニーズ」がなければイノベーションとは呼べないであろう。だが、イノベーティブであると自称する新製品や新技術は「ニーズ」がなく、失敗に終わる。企業内新規事業やスタートアップが失敗する最大の理由は「ニーズ」をとらえていないビジネスを始めてしまうことにあることが、さまざまな研究でも明らかになっている。ニーズがないとビジネスが成立しないことは誰もが知っているはずである。したがって「ニーズ」は誤った確信を持ちやすいものであり、幻覚であることに気づいてからでは遅すぎるものだと心得た方がよいだろう。そのため、リーンスタートアップという考え方が広まっていることは多くの読者もご存知の通りだ。
ジョブ理論の価値は、幻覚と現実を見分けることを可能にしてくれる点にある。ジョブ理論はニーズ因数分解し、可視化する。実は、私たちINDEE Japanがジョブ理論を重視する点もここにある。もう少し説明すると、新しい事業の構想段階では顧客ジョブも仮説でしかなく、この点ではニーズと同じである。しかし、ニーズについてはある程度モノをつくり、売り歩いてみないと実体をつかむことができないのに対して、ジョブであればさまざまな形で検証することが可能になるのだ。
顧客に強いジョブがあるということは、ジョブを解決するためにそれなり行動が伴っているということをジョブ理論は示してくれる。つまり「今、顧客がジョブを解決するために何を行なっているか?」がジョブの存在を示すリトマス紙になる。これが、ニーズが潜在的であっても、ジョブは顕在化する理由である。
加えて、ジョブを抱えたユーザーが、なぜそのような解決方法をとってしまうのか、なぜそのタイミングで解決するのか、どういう状況で解決するのか、を理解すればするほど、優れた解決策(プロダクト)をつくる上でも間違いなく役立つ視点を与えてくれる。商品開発や技術開発といった高コストの活動に着手する以前に、機会の存在を知らせてくれるジョブ理論は、イノベーションに取り組む私たちには不可欠なツールである。