クリステンセン教授のジョブ理論から紐解く、ものづくり企業が発見すべき「顧客のジョブ」

Biz/Zine Day 2017 Summer 「IoTによるものづくり企業の生存戦略」 レポートvol.6

 8月9日に大崎ブライトコアホールで開かれたイベント「IoTによるものづくり企業の生存戦略」で、INDEE Japan 取締役トレーニングディレクターの山田 竜也氏が講演した。テーマは、ものづくり企業が見つけるべき顧客の「ジョブ」について考えること。簡単にモノが売れなくなっているこの時代、クレイトン・クリステンセン教授の「ジョブ理論」をもとにして、解決の糸口を探っていく。

[公開日]

[講演者] 山田 竜也 [取材・構成] 五月女 菜穂 [写] 和久田 知博 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] クリステンセン 事業開発 企業戦略 顧客のジョブ JOB理論

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ユーザーが本質的にやりたいことである「顧客のジョブ」をとらえるための視点のシフト

 山田氏が最初に切り出したのは、自身が設立したINDEE Japanが解決する「ジョブ」。同社には、顧客とその状況、抱えるジョブごとに4つの価値提案があるという。

 既存事業の縮小やマンネリ感に危機感を抱いている経営層を顧客とした、イノベーションを生み出せる組織になるためのコンサルティングである「イノベーションマネジメント」、イノベーションの創出、新規事業の立ち上げに踏み出したチームへのコーチングである「イノベーションコーチング」、イノベーションを生み出すための共通言語を築きたいと考えている経営層、部門長等を顧客とした、考え方やメソッドを浸透させ広めていくための「トレーニング」、そして、新規事業開発を始めたが顧客のジョブ探しに戸惑っているチームを顧客とした、ジョブ探しや仮説検証を支援する「調査リサーチ」の4つだ。

 さらに企業ではなく起業家向けのインキュベーション施設の運営も行っている。つまり、企業と起業家向けに、イノベーション・スタートアップをおこすための「ジョブ」を解決していく会社だという。

 「ジョブ」という言葉を冒頭から多用した山田氏。そもそも「ジョブ」とは何か。考えてみることにしよう。

 「ジョブをとらえるには視点をシフトすることが大切だ」と山田氏は言う。

 自分の会社の製品・サービスが雇われている理由(ここではジョブ理論の表現に合わせて、売れているではなく、雇われていると表現する)は何か。その問いを考える際には、「自社の製品が他社と比べて優れているから/うちの製品じゃないとやりたいことができないから/トレンドだから」などと、「製品軸」で考えてはいけない。製品軸で考える人は、製品・サービスの特徴は説明できるが、それが顧客にもたらす価値、どのようにジョブを解決するかは答えられないことが多い。

 たとえば、ある部品メーカーにおいて、製品の品質が高いというのは特徴であり、その価値は安心して使えることである、そして、ジョブは大量の部品を使う完成品メーカーは、部品の品質問題に悩まされずに、製品の開発に集中したいというジョブがある。

 既存の業界の中で、何とか品質を上げて勝ち残ろうという文脈では「製品軸」でのスペック合戦に注力するのもいいが、新しい事業やカテゴリーを作っていくという文脈だと、事業の枠が狭まってしまう恐れがある。たとえば、部品の品質が劣る競合が、部品の組み込みから検査までをサービスとして提案してきたらどうだろう。品質問題に悩むどころか、この後の検査からも解放されるなら、完成品メーカーにとっては魅力的な提案かもしれない。

 自社が今解決している範囲での「製品軸」ではなく、「ユーザー軸」で顧客が本当にやりたいことを深掘りしていく。製品・サービスの特徴やスペックではなく、ユーザーが本質的にやりたいところに立ち返ったら何が見えてくるかを考えるのだ。その、ユーザーが本質的にやりたいことを「ジョブ(Jobs to be done)」と呼ぶ。

 山田氏は「今ある製品・サービスでユーザーがやりたいことではなく、本質的にやりたいことは何か。本質的にやりたい方向を見定めて、未来に価値を与えられるような製品を作ることこそが、ヒット商品につながるし、新たな製品カテゴリーを生むことができる」と語る。

 事例として挙げられたのがiPhone。携帯電話の進化を考えたときに「音質の向上は持続的イノベーションによる改善にしかならない」音質での差別化が難しくなり、「操作性、ボタンの押しやすさ」を議論していても進化にはつながらない。ここまでは最初に発明された携帯電話のフォーマットの中での改善にすぎない。

 携帯電話をイノベーションするなら、そもそもユーザーがやりたいことは何かを考える必要がある。顧客のジョブに立ち返るのだ。進化させる要素はいくつもあるが、操作性に関して考えてみよう。電話をかける際に、相手の電話番号を数字のボタンで入力するのは、その時代の技術制約による代替解決策にすぎない。今ならSiriで音声インターフェイスが浮かぶが、10年前に戻って、スマホの操作を考えてみる。

 たとえば、こんな問いを立ててみる。「そもそも人はやり方を変えるのを好まない。携帯電話からスマホへと大きくフォーマットを変えるとき、人に受け入れてもらうには、人間が最も受け入れやすい馴染みのあるものがよい。人間が生まれたときから使っている何かを指示するためのデバイスは?」

 「答えは指だ。」自分の指を使ってデバイスを操作できるようにすることが最も受け入れられやすいことに気付いたのだ。より簡単に直感的に使いたいというジョブを考えたときに、製品軸で、既存製品の枠やフォーマットで、考えているとこの発想は生まれない。ユーザーの視点、ジョブの視点を持つことで、人間の本質的にやりたいことを発見できた例だ。これによりデバイスのほとんどがディスプレイ、機械的なボタンは最小限というスマホの原型が生まれた。そして、近日発売されるiPhone Xでは、ついにホームボタンまでもがなくなる。

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