テクノロジーで進化する「顧客体験」と停滞する「従業員体験」、そのギャップがストレスを生んでいる
宇田川(埼玉大学 人文社会科学研究科 准教授):
まずは、「グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド」がどんな調査で、今年の特徴はどんな点にあるか、教えていただけますか。
土田(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員 ヒューマンキャピタルリーダー):
デロイトは、世界的に見てもヒューマンキャピタル、つまり組織や人事系のサービスに非常に強いファームです。そのデロイトがグローバルで協力し、HRやビジネスに携わる方々にヒューマンキャピタルに関して課題になっていることや取り組んでいることなどを聞いてトレンドを探ったのがこのレポートです。2017年は140カ国の1万人を対象としており、このような人事系の調査としては、恐らく世界最大の規模でしょう。
レポートは調査そのものを詳しく紹介するというよりは、今ホットなネタはこれだ、というのを調査を元に明らかにした上で、先進事例やその背景といったことを重点的に書いています。我々はプロフェッショナルとして仕事をする中で、現場で最先端の企業と接していますので、そこで我々なりに掴んだものをお伝えしたいと考えています。
以下のトレンドランキングは、毎年同じ項目について定点観測的に調査をしているわけではないので恣意的なものとも言えますが、我々が企業と接する中で、今年はこれが重要だと感じるテーマを挙げて聞いた結果です。
今年のレポート全体を通じての大きなテーマは「デジタル時代の新たなルール」ですが、そこでお伝えしたいのはテクノロジーの変化がものすごい勢いで起きている時代に、ビジネスはどう変わっているのかということです。世間ではビジネスが追いついていないと言われていますが、よく見ると個人のキャッチアップは結構進んでいるけれど、ビジネスや公共政策のキャッチアップが遅れていて、そこをどう進めていくかが課題、ということが分かってきます。組織と個人をそれぞれ分けて考えよう、と言っているのです。
宇田川:
このグラフが表しているのは、テクノロジーの変化に個人は対応してきているけれども、会社の働き方や組織のマネジメント、あるいは法律などの制度が追いついていない、ということですか?
土田:
そうです。例えば、カスタマー・エクスペリエンス、消費者としての個人の体験は相当高度になっていますよね。スマホを使えば家で寝転んだまま本が注文できて翌日には届くとか、自分で探さなくても欲しいものを教えてくれるとか、本当に至れり尽くせりな生活をしているのが消費者としての自分でしょう。それが会社では全然違って、例えば色々な申請を電車の中で済ませたくてもできない。会社に行ってパソコンを立ち上げ、社内ポータルを立ち上げて、入ろうと思ったらメンテナンス中とか……、エクスペリエンスとしては最悪なんですね。消費者としてのエクスペリエンスが良くなるほど、そういうギャップがストレスになってくる。そこを改善できないと従業員のストレスは溜まる一方ですよね。待遇などが同じ条件で、優れたエクスペリエンスを提供できる会社があれば、そっちで働きたくなります。だからギャップを埋めていこう、そんなメッセージなんです。