「ジョブ」と「ニーズ」って何が違うの?今さら聞けないジョブ理論の素朴な疑問

第六回

前回まで6回、ジョブ理論を解説してきた。少し理論ばかりになってしまったかもしれない。ここまでお読み頂いた皆さまにはいくつか疑問をお持ちの方もいるのではないかと思う。私たちが実施したりセミナーなどの中でよく頂く質問に答えていこう。

[公開日]

[著] 津田 真吾

[タグ] クリステンセン ジョブ理論

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ニーズとジョブの違いは何か?

「ニーズとジョブの違いは何でしょうか?」…この質問はもっともよく頂く質問だ。前述したように、「ニーズ」はあまり明確に定義がされておらず、答えるのに困ることも多いのだが、さまざまな文脈で使われている「ニーズ」という言葉を定義した上で違いを述べよう。「ニーズ」は「顧客が商品に向ける関心や行為などの現象」という意味で使われていることが多い。つまり、消費行動が表面化し、商品やサービスに向かっていることを「ニーズ」がある、と呼ぶ。

一方で、「ジョブ」はニーズが生まれたり(生まれなかったり)する源泉である。ニーズの対象とある製品がなくても存在するものだ。クリステンセン氏が繰り返し言っているように、人はジョブを解決するために製品を「雇って」いる。雇われた結果を見て、私たちはニーズがあると認識する。

ジョブ理論とイノベーションの関係は?

イノベーションの理論の大家であるクリステンセン氏が、なぜプロダクトの開発に関わるジョブ理論を語るのだろうか。イノベーションと人の消費活動には一見関係がないように見える。だが、イノベーションとジョブの関係は切っても切れないものである。その関係について2つの説明をしたいと思うが、まずクリステンセン氏の有名な破壊的イノベーションの理論から説明しよう。

イノベーションのジレンマの図

持続的イノベーションを続ける既存企業が、性能の劣る破壊的技術を持つ参入企業に負けるメカニズムを、クリステンセン氏は『イノベーションのジレンマ』で「破壊的イノベーション」と呼んだ。既存企業は性能向上に最適化されているため、「必要十分」な性能を持つ低価格品や新たな価値を提供する製品への対抗が遅れてしまうという洞察だ。とくに新興企業に参入の隙を与えてしまう理由が、既存企業によるオーバースペックとも言える、性能を追求する姿勢だ。顧客のジョブが求めている以上に性能を高めたところで、顧客はその性能への対価を支払う理由がなくなり、ジョブの解決に十分な性能を持つ製品を選ぶ方が買い手にとって合理的になる。顧客ジョブを解決することだけでなく、「適切な費用で」ジョブを解決しているかどうか注意が必要だ。一般に、大企業では性能不足よりも、製品のオーバースペック(つまり高価格)であるという問題の方が切実だ。

もう一つの説明は、イノベーションの定義から行いたい。イノベーションは、単に新しいものを作り出すことでは興らない。新しいものを「発明」し、「普及」してはじめてイノベーションと呼ぶことができるのだ。そして、モノやコトが普及するには受け取り手がそのことに価値を感じ、「雇う」必要があるだろう。言い方を変えると、多くの人のジョブを解決するような発明をすることがイノベーションなのだ。

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