東大からスタートアップが生まれる理由──教育プログラムにある「複数の入り口」、「先輩起業家」の存在
「東大発のスタートアップは増えている。その秘密を握る人物」と紹介された、東京大学産学協創推進本部の菅原岳人氏。菅原氏は、IT系のコンサルティングファームに勤めていたが、2009年から東大にジョインし、現在インキュベーションマネージメントを担当している。
菅原氏の所属する産学協創推進本部は、東大の中で起業家教育、スタートアップ支援を中核的に担う組織だ。プログラムを図形化すると以下のようになる。
基本的な学習プログラムから、プロダクトを作って、デプロイしていくことを教育し、最終的に事業化できそうなものをインキュベーションレイヤーに持っていくという構造になっている。「大学に入ったからにはスタートアップのことは一般常識として知ってもらって、イノベーション人材になってほしい」。そんな思いを込めて、全学部生対象に大学1,2年生から、ポスドク・研究者まで含めた教育プログラムを用意している。
インキュベーション施設は2005年から運営。本郷・駒場キャンパスに4種類の拠点がある。34室の個室と付随するコワーキングスペースでは、資金調達支援、営業支援などをする一方で、ライフサイエンス系の実験ができる仕様になっている。これまでの累積入居企業数は60社強だ。
具体的に紹介しよう。
起業家の講演を聴きスタートアップに触れてもらうところから始まり、チームを組んでビジネスプラン作成まで行う「東京大学アントレプレナー道場」。2005年から始めた全学対象のスタートアップ・起業に関する基礎講座で、累計2000人以上の学生が参加。特徴的なのは、この講座を卒業した人で、100人以上がスタートアップの起業家になっており、後輩の指導のために講座に戻ってくることだ。菅原氏は言う。「卒業生が後輩を指導して、インキュベーション施設に入ってくれて、サイクルが回っている。下の階層からの長いエコシステムだ」。
院生・研究者を対象に、技術をベースにした事業化構想を作っていく「EDGE NEXTプログラム」。民間企業の主に研究部門の人々も受け入れており、大学の研究者と企業の研究者が一緒になってレクチャーを受ける。最終的には国内研修を受けた後に選抜されたチームがシリコンバレー行きの切符を手にする。
「本郷テックガレージ」は、ビジネスはひとまず横に置いておいて、ものづくりをしたい人が集まる開発拠点。ビジネスプランの思案で躊躇していた学生に対して、とにかくプロダクトを開発することに注力できるよう複数の技術プロジェクト支援プログラムを提供している。
大学という一つの組織の中でも、最初のベクトルやモチベーションはさまざま。起業したい人もいれば、研究としてこの技術の応用を探りたいという人もいる。一つの入り口だけではなく、複数の入り口を用意している。
その中からプロダクト・プロジェクトをデプロイする出口の一つとして、「Todai To Texas(TTT)」が位置付けられる(詳細は後述)。最初に学習するところから始まって、アイディアを内部的にお披露目して評価してもらい、サービス・プロダクトを開発。いいものができたらデプロイするという教育パッケージがそこにある。
菅原氏は「ビジネスから入ったが実はプロダクトの方に寄っていく学生もいれば、全然ビジネスには興味がなかったがプロダクトの開発からデプロイをしたら面白くなってビジネスへ行く学生もいる。我々としては大学発スタートアップの層を厚くしていきたい思いがある」と話す。今後は、すぐにライフサイエンス系の実験が回せるようなインキュベーション拠点の拡充をする予定だという。