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クリステンセン「ジョブ理論」入門

スナチャ、GoPro、汗拭きシートはどのようなジョブを解決したか

第八回

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 クリステンセンの「ジョブ理論」を解説する連載の8回目。今回は「消えるメッセンジャーアプリ」として米国で若者に広まったスナップチャット、小型アクションカメラのGoPro、日本でヒットした汗拭きシートをあげ、そこで解決されているジョブについて考察します。

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 これまでの連載ではジョブ理論の概要や背景、またその有用性について演繹的に解説を行ってきた。今回は3つの事例を通じて実践的に理解を深め、実際に活用できるようになって頂きたいと考えている。まずは、ジョブ理論がもたらす主な利益について再確認しておこう。

  • 事業を成功へと導く強力な道しるべとして活用できる
  • サービスやプロダクトのコモディティ化を避けることができる
  • 情報の海に溺れるだけのリサーチを超えて、質の高いインサイトを獲得できる
  • ありふれた製品ではなく、イノベーティブで逆張り的な製品アイデアが発想できる

ジョブ理論と機能の価値

 1つ目の事例として、ジョブの観点から「スナップチャット」というサービスについて考えてみたいと思う。スナップチャットは米国スナップ社によるチャット形式の写真・動画共有サービスで、2017年現在1億5,000万人以上のアクティブユーザーによって毎日2,000万枚の写真や動画の共有されている人気のアプリだ。
 スナップチャットの特徴は、「共有された写真や動画、メッセージが10秒で消える」という機能である。この「消える」という機能は厳密に設計されたもので、受信したメッセージを閲覧している間は他アプリへの切り替えやスクリーンショットもできないほど、こだわりの仕掛けとなっている。

機能劣化?のイノベーション

 では「共有された写真や動画、メッセージが10秒で消える」という機能は、1億5,000万人以上のどのようなジョブを片づけているのだろうか?

 3週間前に約束した待ち合わせの時間を確認するときに、私たちは過去の履歴を検索する。このように、「履歴が残り、検索できる」ということは、ITを利用したコミュニケーションの美点でもあり、ほとんどのメッセージングサービスには履歴の閲覧機能が存在する。つまり、常識的には「情報が消えてしまう」という性質を持つスナップチャットは他のメッセージングサービスの劣化版とも見えるのではないだろうか。にもかかわらず、スナップチャットは、なぜあえて美点を捨てることにこだわったか。

 まず、スナップチャットが他のサービスよりも上手に片づけることができるジョブ(つまり、1億5,000万人の心を捉えたジョブ) がどのようなものであったのかを想像してみて欲しい。ここでも目的、障害、代替解決策の各要素から考えていきたい。

  • 目的 : コミュニケーションという行為が、情報の伝達という機能的なジョブ以外に、解決しているジョブが存在するのではないか?
  • 障害 : 「履歴が残る」ことでどのような不都合が起こるのか?
  • 代替解決策 : スナップチャット登場以前に、ユーザーが利用していたコミュニケーション手段は何か?

「可能を不可能にする」という手段

 これらのヒントは、ユーザーの大半を占めるティーンエイジャーのコミュニケーションを思い起こせば気づきやすい。親友や恋人同志でたわいもない会話による夜通しの長電話をすることは、世代を問わず経験があるのではないだろうか?スナップチャットが登場する前も、「たわいのない話をする」ジョブは存在し、アナログな手段や従来のチャットツールが雇われていたことは容易に思い出せるだろう。このようなたわいもない会話が電話で行われていた不都合は「声」にあった。家族に聞かれるかもしれないし、夜中であれば起こしてしまうかもしれない。また履歴の残るチャットツールであれば、残ることによって踏み込んだコミュニケーションが図れないという不都合がある。電話を使ったコミュニケーションでは、あえてキワドイ領域に踏み込んだコミュニケーションを交わしても、翌朝には「楽しかった」という気持ち以外は残らない。記録に残ることが障害となる極端なケースを挙げたが、すべて記録されているとしたら会話を存分に楽しむことができないという人は存在する。かのソクラテスですら、文字にしてしまうと永続し、固定してしまうことから「対話」を重視したという。つまり「履歴が残る」という機能は、コミュニケーションを楽しみたいというジョブに対する障害となっているということだ。そのコミュニケーションがキワドイ内容であればなおさらであろう。

 そこに着目したのがスナップチャットである。インターネットやスマートフォンの普及によって、画像や動画を用いたコミュニケーションが一般的になった時代に適したツールとして、スナップチャットは設計されている。

 新製品を「不可能を可能にすること」から着想しようとしても、「履歴が消える」コミュニケーションという発想はなかなか生まれない。世に出るプロダクトが問われるのはいつでもただ1つのこと、「それはジョブを解決するのか? 」であり「不可能を可能にするか? 」ではないのだ。

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この記事の著者

津田 真吾(ツダ シンゴ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

加藤 寛士(カトウ ヒロシ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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