ビジネスの争点をHowからWhatにシフトさせる
岩嵜氏が部長を務めるHUX(Hakuhodo UX & Service Design)は、企業の事業戦略をUX視点でリードして、真に価値のあるプロダクト・サービスを作るクリエイティブコンサルティングをミッションとしている。スライドの図が示すように、顧客体験・UXを真ん中に置き、その周辺にある事業戦略、プロダクト・サービス、マーケティングコミュニケーションをつないで活動をしている。
ビジネスデザインという観点から見た現在のビジネス環境の解説にあたり、岩嵜氏は時価総額世界ナンバーワンの企業であるアップルの売り上げの推移を表すチャートを提示*1した。縦軸は売り上げを製品の種別に蓄積した数値、横軸は時系列である。その図では、パーソナルコンピューターの売り上げは2006年から2012年まで大きな変化は見られない、iPhoneは2010年以降爆発的に伸び、それがアップル全体の売り上げを押し上げている様子が分かる。
アップルが創業時と変わらずパーソナルコンピューターのみを販売していたなら、現在もパーソナルコンピューターメーカーでしかなかったはずだ。しかし同社は2001年からiPodで音楽市場に参入し、iPhoneを世界中に普及させたことで、世界を代表するテクノロジーカンパニーにまで成長した。
これが何を示しているのかというと、ビジネスの争点がHowからWhatにシフトしたということです。Howとは、例えばパソコンの品質や機能を向上させながら、どう安く作るかということ。しかし、それだけでは不十分です。重要なのは、次のWhatをいかに見つけられるかということです。(岩嵜氏)
ビジネスの争点をHowからWhatにシフトした事例は他にもある。今年1月に行われたCES 2018でプレゼンテーションを行ったフォード・モーターのCEOは、自動車の製造だけではなく、交通インフラと都市開発に視点を向けていることを明確に示した。あるいは、過去100年の間、構造的には変わっていなかったワークスペースのあり方も、現在はコワーキングスペースの台頭で大きく変化している。その影響は不動産会社のみならず、家具メーカーの事業内容にも及ぶだろうと岩嵜氏は指摘する。
効率化だけを考えればよかった時代から、新しく価値を創造していかないといけない時代に変化しているのです。(岩嵜氏)
What側の機会を探す際に、既存のフレームのみで考えても、新しいWhatや5年10年先の展望は見えづらい。であるならば、通常のビジネスシンキングに加え、クリエイティブシンキングを統合する必要がある。
この図は、「UZUMAKI」と呼ばれるHUXチームのワークプロセスである。生活者発想として生活者のことを考えてヒューマンセンターデザインをするだけではなく、ビジネス側からの視点を入れつつ、双方を行き来する構造となっている。
また、ヴィジェイ・クーマーの著書『101デザインメソッド ―― 革新的な製品・サービスを生む「アイデアの道具箱」』でも、ビジネスサイドとクリエイティブサイドが美しく融合している構造が紹介*2されている。
*1: http://www.businessinsider.com/chart-of-the-day-apple-revenue-product-2012-10
*2: http://www.101designmethods.com/