「成果型エコノミー」と「自律型エコノミー」の到来
この日のテーマはデジタル変革の波の中で、製造業はどのような戦略をとるべきかというもの。イベントのオープニングに際して、アクセンチュアの江川昌史社長は、次のような論点を提示した。
・技術の普及カーブか急激になっている。
モバイル、クラウド、人工知能、アナリティクス、機械学習といったテクノロジーの複合的な影響が加速している。とりわけAI、IoT、ビッグデータの最近の普及カーブは急激で、こうした時代にあっては普及後に対応するというかっての日本企業の「二番手戦略」は通用しない。
・産業のトレンドは、製品からサービス、そしてアウトカム(成果)にシフトする。
産業は4つのフェーズに沿って進む。かつての「業務の効率化」から現在は「サービス化」の段階、今後は成果や使用分に応じて課金される「成果型エコノミー」が到来し、数年後は、サプライチェーンやサービスの自動化による「自律型エコノミー」の時代となる。
・IoTは日本国内の産業にとって好機
IoT市場は2020年に向けて、10兆円市場になり年率16%の伸びとなり、そのうち30%程度を製造業が占めると予測され、この領域が日本のデジタル化を牽引する。
なぜ「X.0」(エックス・ポイント・ゼロ)なのか
欧州の「インダストリー4.0」、日本政府の「ソサエティ5.0」などが語られるが、デジタルによる変化のフェーズは早く、カウントの数字は今後もさらに増え続けていく。こうした予測からアクセンチュアが提示したのが「インダストリーX.0」(エックス・ポイント・ゼロ)だ。
アクセンチュアの立花良範氏は「インダストリーX.0」の基本コンセプトを紹介した
今後、設計や製造はさらに効率的になり、ネットワークにつながれたプロダクトを中心に顧客と定常的につながり、体験を提供していくビジネスに変化していく。例えばコネクテッド・カーや自動運転の時代には、完成品としての自動車を販売する形から、走行データなどを通じて、顧客に継続的にサービスを提供していくビジネスになる。従来の「製品」はソフトウェアの入れ物にすぎない。クラウド上のプラットフォームと連携した「コネクテッド・スマートプロダクト」と「ハイパー・パーソナライゼーション」が価値を形成していくことになるという。
「AI+モノづくり」でムーブメントを
立花氏はこうした流れから、日本の製造業には戦略として以下の2つの方向性が見えてきているという。
ひとつは、かつての日本の製造業の「ものづくり」にAIやロボティクスのテクノロジーを加味する「ものづくりスキル☓AI」戦略だ。かつて日本企業の強みといわれた「匠の技」や「すりあわせ」は、それだけではデジタルの時代には通用しない。しかし、製造工程での職人的なノウハウをデジタルで強化することができれば、大きな可能性を持つことになる。
もうひとつはロボティクス企業とAIベンチャーの連携。現在グローバルな産業用ロボット市場のトップ14のうち、8社をファナックや安川電機などの日本企業がしめている。こうしたロボティクスの企業と、AI・機械学習系のスタートアップの協業に期待が持てるという。こちらはすでに、ファナックとプリファード・ネットワーク、安川電機とクロスコンパスなどのジョイントの事例がある。
今後の製造業は、AI、データテクノロジー、ロボティクスを加味した「AIパワードマニファクチュアリング」へと脱皮する。そうなると製造業は、人件費の安い国で生産するのではなく、消費市場に生産拠点を移すことになる。「この流れは日本にとって追い風」であると立花氏はいう。
「業務のデジタル化」「顧客体験のデジタル化」の両軸で推進する
「日本でもAIやIoTのプロジェクトは盛んに喧伝されているが、なかなか成功事例は目にしない。ユニークなものはあるがほとんどがPoC(概念実証)のレベル」だとアクセンチュアの河野氏は語る。現状での日本企業のデジタルへの取り組みは、顧客に対してか、社内効率化のどちらかで語られることが多かったと指摘する。
そしてアクセンチュアが考えるデジタルによるビジネス変革のフレームワークとして縦軸に「顧客のデジタル化」(外部の視点)、横軸に「業務のデジタル化」(内部の視点)を設定し、その両軸で「ビジネスのデジタル化」を考える図を紹介した。アクセンチュアではこの両軸でデジタル化の対象分野を検討している。