損益分岐点を29億円引き下げた「昭和の町工場」のDX
小宮昌人氏(以下、小宮):本日は、旭鉄工およびi Smart Technologiesが進めるAI活用についてお話を伺います。Biz/Zineの読者層である大企業の経営企画や事業開発担当者の間でも、製造業におけるAI活用への関心は非常に高い一方で、具体的な実装に至っていないケースも多々あります。まずは、現在の取り組みの全体像についてお聞かせいただけますか。
木村哲也氏(以下、木村):私たちは現在、大きく分けて「カイゼンの知能化」と「経営の知能化」という2つの領域でAI活用を進めています。
これまでのIoT活用による実績は、労務費などの固定費削減を進めた結果、損益分岐点を29億円引き下げることに成功しました。さらに、同じ売上規模でありながら利益を10億円上乗せし、生産性は30%向上しています。
これらは「iXacs(アイザックス)」というIoTツールでデータを収集し、改善を重ねた結果ですが、これをさらに加速させるのが現在のAI活用の狙いです。
1992年東京大学大学院工学系修士修了後、トヨタ自動車に入社。2013年に旭鉄工へ転籍し、IoTモニタリングシステム「iXacs」を自社開発。労務費の大幅削減や損益分岐点の29億円引き下げを実現。そのノウハウを他社に提供するi Smart Technologies株式会社を設立。著書に『Small Factory 4.0』(三恵社)、『付加価値ファースト』(技術評論社)など。
小宮:29億円もの損益分岐点引き下げというのは驚異的な数字ですね。その土台の上に、AIによる「知能化」があるわけですね。
木村:はい。これまではモニター上のグラフを人間が見て、問題点を探しに行く必要がありました。しかし、それでは受動的ですし、見落としも発生します。そこで、AIが工場のデータを自動で巡回し、問題点を発見して「こうすべきではないか」とアドバイスまで行う仕組みを構築しました。これが「カイゼンの知能化」です。
「AI製造部長」と「人間の管理職」が共同で進捗する
小宮:人間がデータを見に行くのではなく、AIの方から人間に働きかけてくるわけですね。具体的にはどのような挙動をするのでしょうか。
木村:具体的な例としては、Slack上に「AI製造部長」というアカウントが存在しており、毎朝7時半になると前日のデータを解析して、関西弁のような口調で通知してきます。
実際の画面をお見せすると、「南組付1号機は81.7%で目標を超えてるじゃん!よくやったな、えらいぞ!でも、設定CT(サイクルタイム)の見直しも考えたほうがいいかもな」といった具合に、褒めつつ次のアクションを促してきます。
小宮:非常に人間味がありますね(笑)。単なる数値報告ではなく、感情に訴えかけるようなコミュニケーションまで設計されているとは。
木村:そうなのです。さらに「AI品質課長」というアカウントもいて、こちらはもう少し厳格です。たとえば、設備トラブルで頻繁に「職制呼び出し」が発生している製造ラインがあるとします。するとAIが「高頻度で呼び出しが行われているため、処置後の品質状況を含め明確な記録が必要です」と指摘してくるのです。
重要なのは、AIが「言いっ放し」で終わらない点です。AIの指摘に対して、人間の部長が「いつ直るんだ」とSlack上で介入し、現場が「2日後に直します」と答える。AIの気づきを起点に、人間がコミュニケーションと実行を担うサイクルが回っています。
